ひょうすべの誓い 節四拾五

文字数 479文字

 同年七月――天正五年の中国戦線について以来、十年以上秀吉がむきあいつづけてきた男……毛利輝元が、上洛している。
 (きたか
 (副将軍)
 この二人が対面するのは、はじめてのことではないだろうか……卑賤の、およそ身分などとは言えぬ馬の骨である秀吉と、生まれながらに中国の王であった輝元だ。
 接点など、あろうはずもない。――ぜんぜんちがう。
 
 なのに、向かい合えば、ふしぎと、通底するものがある……
 鏡のように。
 
 ひょうすべと、
 ひょうすべが。
 
 天正十六年七月――聚楽第にて、顔合わせをした……
 
 (ああ)という感慨を、両者が持っただろう。(こいつだ)
 「手もなく
 「降ってしまいました」などと、輝元は、豪毅な面魂に苦笑のひとつも浮かべただろう――
 秀吉も、如才では

笑ったに相違あるまい――
 「なんの
 「天正五年以来、てんてこ舞いよ」
 「真事(まこと)
 「出雲の神楽もおよびもつかぬ
 「美事(みごと)な舞いを馳走していただきました」
 「あはは
 「尾張の田楽踊り」
 「故右大臣は、田楽狭間(でんがくはざま、桶狭間)で出頭なさいましたな」
 「もったいない」
 両者は、笑いあう――
 
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