ひょうすべの誓い 節五拾六

文字数 1,170文字

 
 

 後期倭寇は、ずいぶん、色合いがちがう……
 
 すでに、世界的な大航海時代が開幕している。モンゴル帝国がおとろえ、それに乗じたオスマン帝国が地中海に進出……地中海貿易を押さえられたヨーロッパ諸国は、大西洋へ出て行くことを余儀なくされる。イベリア半島の西端にあるスペインとポルトガルが、この競争に先鞭をつけ、巨魁となったのはごぞんじの通り……アラビアからヨーロッパにかけての交易が、マルコポーロの東方見聞、モンゴル帝国による色目人(アラビア人)登用などを伏流として、一挙に、アジアやアメリカを巻き込む規模に拡大したのだ!
 人類史におけるカンブリア大爆発と言えるだろう。文明が飛散し、異文明と接触し、悲喜劇と輝かしい産物をうみだす……
 日本も、このストリームに洗われた。室町文化は、その末期から始まる安土桃山文化まで含んで、なにか、明の文雅ときらびやかさが基調となり、そこに南蛮の異彩が(おど)される――異国情緒に富んだものだ。
 このはなやかさや光源は、昭和のバブル経済などもののかずではない――日本史で、大唐に比肩すると胸を張ることができるのは、この時期のみではないだろうか?
 ……その八幡大菩薩の嘉される国際色の中、国内はつねに不安定で戦乱が吹き荒れていたあたりが、なんともはや……
 八幡の、牛頭天王の、兵主の、蚩尤の烈しさとしかいいようがない……そも、牛頭天王や武塔神(むとうのかみ)と習合したあたり、疫病の神でもある……
 猖獗きわまる……
 その烈風と災禍の中で、中華を日没する処と評した日出ずる処が、絢爛とかがやくのだ……
 日本の華美は、いつだって、鮮烈さと、痛切さにつうじている……息切らせるように。
 作者は、華麗で、新進の気鋭に富む時代は、せいぜいが一世紀しか持たないと思っている――中華文明の誇らしき異端である元朝すら、百年と保たなかった。文明は、つねに安定を志向する……それが、坂道を転がり落ちるような急変に見舞われるとき、よきにつけわるきにつけ、百年以上は息がつづかない……
 
 それなのに、室町時代から江戸初期まで、二百年継続した……
 
 まちがいなく、世界史的なこの絢爛なる潮流に乗ったからだ――やはり、日本は、(とざ)されてあることなどできない。いつだって、世界の現実は、われわれをほうっておきはしない……
 国内をガタガタに破綻させ、おおくの筋目や名士を没落させ、下克上の乱高下を体験しながら……信じられない、綺羅と幽玄と国風と国際の協奏をかなでてみせた。農業技術も大いにあがり、人口も増加する……
 創造と破壊……それを車の両輪として、八幡は、この時代を、駆け切った……
 ――さぶらふものは、あだやおろそかにはいたしませぬ!
 最終的に、織豊政権が、これらの時代の精華を傾けて、皇室に尽くすことができたのは、なによりだった。
 周防はたたかいぬいた――
 
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