まつろわぬ民 節四

文字数 419文字

 刷雄と世道は、西二坊大路を下り、下京へと向かう。雨が、降っている。さほど強い雨ではない。
 二人は、それぞれ、背後に人を従え、傘を差し掛けられている。正確には、刷雄の式だ。追越見越(おいこしみこし)という名の大入道で、かたわらに鬼火が燃えている。白く、中心部では燐が輝く火は、水に音は立てないものの、煙を発している。霊感のあるものなら、たまげることだろう。
 「意外でしたな」「ほうか? すでにわしらは、御意の下、敵味方のう、尽くしているではないか」「われわれからの押しかけでしょう」「――ふ。ほうよな」思えば、秦氏というのは、いつもそうだ。聖徳太子の隣にあった秦河勝(はたのかわかつ)、大仏造営にあって職人や銅を工面した秦朝元(はたのあさもと)、長岡京造営使長官秦足長(はたのたりなが)……能力と財力を傾けて、彼らは尽くす。
 それなのに、彼らが誰かになにかをしてもらった――そんな記録は、まるで見当たらない……
 刷雄と世道が与力したことが、すでに異例。
 まして、秦氏から、外部に協力を要請するとは……
 (……)
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