まつろわぬ民 節九拾九

文字数 1,135文字

 「みとめねばなるまい――おぬしも、われらよ
 おぬしも、ひょうすべじゃ。
 われらがなれのはてよ」
 顔を上げると、そこに、ひょうすべがいる――堕落した秦氏の象徴(アバター)……
 たちどまっている。
 「われらが神にして、われらの心根そのものよ。
 こなたに根を下ろし、それ以上の探求も究明も放棄した、
 根無し草を放棄した、探求精神のなれのはてよ」
 
 すすみでる――どうどうと。
 おのれが、威権を代表せねばならぬ――そうでなければ、やりとげられぬ。
 
 謝罪することなど、できるはずがない……
 「すまなんだ――ひょうすべよ。
 われらが、ひとにはなれぬことを、わすれて――いや、
 わすれようとしておった」
 孤独に負けた――
 異邦人が、邦人めかそうと――
 我をゆずり、(エゴ)を捨てて……
 
 それでなにものかになれるはずなどない――
 なにものでもない――

にしかなれない……
 
 われらの孤独は、見守られていたというのに……!
 
 孤独であることを見守ってくれる日は、かわらずそこにあったのに!
 
 

……!
 
 「われらは異邦人だ――帰化は、しょうにあわぬ。同化はねがいさげじゃ」
 
 わらう――にっ、と……
 傲然と――
 
 そうでなけれなばらない――技術力を鼻にかけた、天狗どもだ!
 〝われらはちがう〟と……むしろ、ほこらかに、そう高唱する、大天狗だ!
 
 人の腕が、
 金床の上で、金物をきたえあげ、その指先は驚異の細工をものする、技術者の腕が、
 妖怪の、よいどれ親爺の首根っこをからめとり、かるがる、おのが胸中へと、ひきこんだ……
 悪臭……
 濡れそぼった、犬のよう……
 人で――獣で――妖怪で……
 
 われわれだ……!

 「ようやった。
 ともがらよ――ともにゆこう」
 妖怪が、目をみはる――
 人の親切にありついたことなぞ、ついぞなかった――そんな、犬のように。
 
 

……!
 
 狗ではないから――みずから、あらたな猟場をもとめられるのだと、きづいたように!
 わななく――
 ふるえ――おののき……
 
 死水に、活路がひらけた……そうさとったのだ。
 灼熱の(うしお)がたまる。
 
 ヒ、
 ヒ、
 ヒョー、
 という、その音は、これまでにはなかったものがあらわれている。
 
  
 (ようよう追いついた)おのれの懐に、ひょうすべの毛むくじゃらの矮躯を迎え、その体臭にまみれながら、徐福は、思う……
 
 これで、ようやくだ――
 
 おのれらの……あるがままに向き合い――受けいれた。
 
 合致した。
 
 かがみにうつるおのれと、かがみのまえにたつおのれが……
 (ゆかん)
 
 外界へ――辺土の泥と、汗水のしたたる労働のきわへ……
 
 なにかをきずきあげる――かがやかしくも、戦慄的な段階(フェーズ)へ……
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