習合 節廿五

文字数 553文字

 (うおお)
 者羅者羅(じゃらじゃら)
 邪羅邪羅。
 「あくう」「(おお)」世道も、徐福も、悲鳴を上げる。揉みしだかれ、揉み潰される。それは、看経(かんきん)の数、功徳の多寡を計る数珠ほどには、人の(たま)は、頑丈にできてはいない。
 露命(たま)なのだ。
 人間など。
 魂胆(こんたん)と命脈をおびやかされ、よろめき、のたうつ。天狗どもが、ゲタゲタ嗤っている。よく見れば、大伴継人(おおとものつぐひと)竹良(たけよし)兄弟やら佐伯高成やらは、衣冠のまま、その面は毒々しいまでに赤ばみ、増長に鼻の鉤描く魔縁天狗となっている。ケタケタと、親王禅師に調伏されている、人間どもを見下ろしている。
 脳裏に、心霊に、おのれを圧搾し、すり潰す、親王禅師の(たなごころ)を感じる。後世の神魔小説、魔猿がその掌上を飛び出すことさえかなわなかった手は、かくのごとしか。(あ、が、あ)高圧的な合掌と摩擦に、もう、限界を迎えつつあった。このまま、玉の緒が千切れてこときれるか、正気と狂気を隔てる一線が途切れて廃人となるか。(どちらもごめんじゃ)刷雄は、ふらふらと、よろけ、ひざまずき、そこにあったものを拾う。世道が取り落とした、剣だ。(あ、うあ)血が出るのもおかまいなしに、白刃を握って、立ち上がる。煮えたぎる奔騰、呪詛を浴びて、人界へ悪意の牙を剥く。「う、お、おお」刷雄は、びしゃびしゃ、膝下を浸す汚水をかき分けて、小泉川へ向かう。
 
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み