高崎聡〈8月15日(日)①〉
文字数 943文字
高崎聡、八月十五日(日)
一
何気なく聞いたつもりだ。すると千嘉は「やっぱり」と言ってうれしそうに手を合わせた
「何が『やっぱり』なんだ?」
「内緒」
八月十五日の日曜日。部活は休みで千嘉が家に来た。早速火州に頼まれた、草進って子の番号を聞く。「やっぱり」の訳は気になるが、とりあえず廊下に出て連絡する。
〈助かる〉
火州は手短に礼を述べると、すぐに電話を切った。
「聡さんあのね、さっきのことなんだけど」
誰に似たんだか、千嘉はおしゃべりだ。自分の中に秘密を溜め込んで置けない。電話を終えて部屋に戻った途端、いきなり白状する。
「こないだ真琴ちゃんと話をしてね、その時に分かったことなんだけど」
奥にある横長のソファ。千嘉の隣に座る。
「水島君は聡さんの友人の女の先輩が好きで、その人は火州さんが好きで、でね、真琴ちゃんは水島君が好きなの」
部屋中の明かりを集めてはじく目。俺は言っていることを整理するのに時間がかかる。
「だからもし火州さんが真琴ちゃんの事好きになったらみぃんな片思いになるの。すごくない?」
いつになく上機嫌だ。人の噂話ほどいいとこ取りなものはないのだろう。
「いや、でも火州がその『真琴ちゃん』を好きになることはないと思うが」
だってあいつは恨んでいる。あの時からずっと「助けられた」屈辱をたぎらせていた。
「でも連絡先知りたかったんでしょ?」
「あぁ、でもそれは・・・・・・」
ケリをつけるため。自分で考えて疑問が残った。あの時、三日前話したあの時、火州は少なくともそんな殺気を持ち合わせていなかった。それどころか、一緒に花火に行って雅ちゃんに謝らせようともしていた。それっておかしくないか? 鮫の言うとおり「ほっとく」方がまだ自然だ。
静寂。時計の秒針の音が響いた。平日、二階はガラ空きだ。その肩を抱く。たくましい肩は同じ競技者の証。ウエスト六十何センチ。腹の肉が当たった。埋もれそうな鎖骨を見て思う。
相手がこの子でよかった。
手加減しなくていい。渦巻く思いを思いっきりぶつけられる場所が、俺には必要だった。
その後自分のほうに引き寄せると、その頭をなでながら目の前にある耳にかみつく。
嬌声。女のにおいがした。
一
何気なく聞いたつもりだ。すると千嘉は「やっぱり」と言ってうれしそうに手を合わせた
「何が『やっぱり』なんだ?」
「内緒」
八月十五日の日曜日。部活は休みで千嘉が家に来た。早速火州に頼まれた、草進って子の番号を聞く。「やっぱり」の訳は気になるが、とりあえず廊下に出て連絡する。
〈助かる〉
火州は手短に礼を述べると、すぐに電話を切った。
「聡さんあのね、さっきのことなんだけど」
誰に似たんだか、千嘉はおしゃべりだ。自分の中に秘密を溜め込んで置けない。電話を終えて部屋に戻った途端、いきなり白状する。
「こないだ真琴ちゃんと話をしてね、その時に分かったことなんだけど」
奥にある横長のソファ。千嘉の隣に座る。
「水島君は聡さんの友人の女の先輩が好きで、その人は火州さんが好きで、でね、真琴ちゃんは水島君が好きなの」
部屋中の明かりを集めてはじく目。俺は言っていることを整理するのに時間がかかる。
「だからもし火州さんが真琴ちゃんの事好きになったらみぃんな片思いになるの。すごくない?」
いつになく上機嫌だ。人の噂話ほどいいとこ取りなものはないのだろう。
「いや、でも火州がその『真琴ちゃん』を好きになることはないと思うが」
だってあいつは恨んでいる。あの時からずっと「助けられた」屈辱をたぎらせていた。
「でも連絡先知りたかったんでしょ?」
「あぁ、でもそれは・・・・・・」
ケリをつけるため。自分で考えて疑問が残った。あの時、三日前話したあの時、火州は少なくともそんな殺気を持ち合わせていなかった。それどころか、一緒に花火に行って雅ちゃんに謝らせようともしていた。それっておかしくないか? 鮫の言うとおり「ほっとく」方がまだ自然だ。
静寂。時計の秒針の音が響いた。平日、二階はガラ空きだ。その肩を抱く。たくましい肩は同じ競技者の証。ウエスト六十何センチ。腹の肉が当たった。埋もれそうな鎖骨を見て思う。
相手がこの子でよかった。
手加減しなくていい。渦巻く思いを思いっきりぶつけられる場所が、俺には必要だった。
その後自分のほうに引き寄せると、その頭をなでながら目の前にある耳にかみつく。
嬌声。女のにおいがした。