飛鳥1〈4月15日(木)④〉

文字数 664文字



  四

「飛鳥様」
「だから様付けはやめろって」
 まっすぐ向かってくる声。向かってきているのは声だけではない。そんなこと、とっくに分かっている。手持ち無沙汰でポケットに手を突っ込む。小銭と、ここのドアに使う鍵がこすれて音を立てた。
「いいえ、飛鳥様は飛鳥様です」
 鈴汝は怯まない。いつだって正面から向き合おうとする。
「雅もここに来たいです。飛鳥様がおられる時でなくとも」
 風が出てきても関係ない。まっすぐ届く声。
 走る緊張。その手元が落ち着きをなくす。
「だから、その、合鍵、を、つくらせていただけませんか?」
 上げた目。その表面に張った膜。俺は予想しなかったことに驚くが、すぐに断った。今度はこっちが視線を外す。
「ここは三人の秘密基地なんだ」
「では雅もその仲間に入れてください」
「それは俺だけが決めていいことじゃない」
 ポケットのの小銭が音を立てる。形を変えた、貧乏ゆすり。
「それに基本屋上は立ち入り禁止だ。生徒会の人間がいていい場所じゃない」
 鈴汝はまだ何か言いたそうだったが結局うつむいた。
「でもたまに遊びに来る分にはいいですよね?」
 うかがう顔色。仕方なしに「あぁ」と答えると、ようやくその頬が緩んだ。
 
 鈴汝はかわいい。
 かわいくて、かわいくて、ただ。
「また来ます」
 鈴汝はその後、肩までの短い髪を揺らしながら階段を駆け下りていった。
 その足音が聞こえなくなると同時に、上から深いため息が降ってくる。
 きっと俺の頭上には白い煙が充満しているんだろうな、と思った。



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登場人物紹介

草進真琴(そうしんまこと)

高一女子。モットーは「私はただの高校生。それ以上でもそれ以下でもない」

6月10日生まれ、A型。


作画、いく。

火州飛鳥(ひしゅうあすか)

女嫌いの高三。美形。

9月2日生まれ、B型。


作画、いく。

鈴汝雅(すずなみやび)

男嫌いの高二。美人。

3月3日生まれ、O型。


作画、いく。

水島聖(みずしまひじり)

病んだ高一。思い込みが激しい。

6月27日生まれ、A型。


作画、いく。

鮫島勤(さめじまつとむ)

高三。飛鳥の友人。

2月2日生まれ、AB型。


作画、いく。

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