雅6〈8月15日(日)①〉
文字数 921文字
雅六、八月十五日(日)
一
デジャヴ。これはついさっき見た光景。一つだけ違うのは、目の前にあるのが大きな背中だということ。少しだけ西に傾いた太陽。その筋肉は強い光に照らされて、一つ一つ独立した生き物のように動く。耳の下、下顎のつけ根。荒削りな直線で出来た横顔は中高のいわゆる馬顔で、人間の中でもトップクラスの造作だった。
飛鳥様こそが最高の男性。
それはもちろん外見だけにとどまらない。一年以上見てきたあたしが言うのだ。偉ぶらず、媚びず、友人思いで、あたしにも優しく。あたしにも。あたし以外にも。
きっかけは飛鳥様が立ち上がったことだった。
「俺足りないから、何か買ってくるわ。欲しいもんある?」
うだるような暑さの中、かなり勇気のいる提案をする。その向こうで鮫島先輩と高崎先輩が仲良く手を上げた。
「俺たこ焼きー」
「俺もたこ焼きー」
「あ、あたしも」
すかさず声を上げる。必ずしも食べ物が欲しい訳じゃない。
「何かいいものがあれば欲しいので、一緒に行きます」
言いながら一歩踏み出す。パラソルの中と外。圧倒的な落差を前に迷いもなく飛び出せるのは、飛鳥様相手だからなせる業だ。ただ、その目は別の方向を向いていた。
「お前は?」
呼びかけた先で草進真琴が激しく首を振った。
「あ、いえ、私は・・・・・・」
「遠慮すんな。動けねぇなら買ってくるっつってんだ。別にお前の分だけじゃないだろう」
「すいません・・・・・・でも・・・・・・」
それでもひたすらその首を振り続けている。注目されること自体に慣れていないのかもしれない。消え入るような声は、最後まで聞き取れなかった。
「そうか」
飛鳥様はきびすを返すと、そのまま歩き出した。その背中について行く。その時だった。
「雅ちゃん、フランクフルト食べたくないー?」
突然呼ばれて振り返ると、鮫島先輩が口の右端を吊り上げてニコニコしていた。
「ダメです! 鈴汝さん、この人の言うこと聞いちゃダメです!」
しかしその直後、水島が鮫島先輩に掴みかかる。いつの間に仲良くなったのかしら。
はっとして振り返ると、飛鳥様はすでに随分離れてしまっていた。その後を追う。
一
デジャヴ。これはついさっき見た光景。一つだけ違うのは、目の前にあるのが大きな背中だということ。少しだけ西に傾いた太陽。その筋肉は強い光に照らされて、一つ一つ独立した生き物のように動く。耳の下、下顎のつけ根。荒削りな直線で出来た横顔は中高のいわゆる馬顔で、人間の中でもトップクラスの造作だった。
飛鳥様こそが最高の男性。
それはもちろん外見だけにとどまらない。一年以上見てきたあたしが言うのだ。偉ぶらず、媚びず、友人思いで、あたしにも優しく。あたしにも。あたし以外にも。
きっかけは飛鳥様が立ち上がったことだった。
「俺足りないから、何か買ってくるわ。欲しいもんある?」
うだるような暑さの中、かなり勇気のいる提案をする。その向こうで鮫島先輩と高崎先輩が仲良く手を上げた。
「俺たこ焼きー」
「俺もたこ焼きー」
「あ、あたしも」
すかさず声を上げる。必ずしも食べ物が欲しい訳じゃない。
「何かいいものがあれば欲しいので、一緒に行きます」
言いながら一歩踏み出す。パラソルの中と外。圧倒的な落差を前に迷いもなく飛び出せるのは、飛鳥様相手だからなせる業だ。ただ、その目は別の方向を向いていた。
「お前は?」
呼びかけた先で草進真琴が激しく首を振った。
「あ、いえ、私は・・・・・・」
「遠慮すんな。動けねぇなら買ってくるっつってんだ。別にお前の分だけじゃないだろう」
「すいません・・・・・・でも・・・・・・」
それでもひたすらその首を振り続けている。注目されること自体に慣れていないのかもしれない。消え入るような声は、最後まで聞き取れなかった。
「そうか」
飛鳥様はきびすを返すと、そのまま歩き出した。その背中について行く。その時だった。
「雅ちゃん、フランクフルト食べたくないー?」
突然呼ばれて振り返ると、鮫島先輩が口の右端を吊り上げてニコニコしていた。
「ダメです! 鈴汝さん、この人の言うこと聞いちゃダメです!」
しかしその直後、水島が鮫島先輩に掴みかかる。いつの間に仲良くなったのかしら。
はっとして振り返ると、飛鳥様はすでに随分離れてしまっていた。その後を追う。