飛鳥3〈6月19日(土)③〉
文字数 599文字
三
「雅ちゃんはどうすんの?」
唐突な問いかけに驚く。鮫島は屋外に出るドアの磨りガラスを見ていた。
「あぁ」
保健室に入った時のこと。それと同時に思い出す。
「・・・・・・そうだ、真琴はどうした」
「真琴?」
「草進真琴だ」
「あぁ」
鮫島は一瞬目を丸くしたが、その後あまり興味なさそうに言った。
「帰ったよ」
「あのままでか?」
「たぶん。俺さっさと出てきたから分かんね。そんなことより、雅ちゃんはどうすんの?」
そんなことって・・・・・・どう考えたってまずいだろう。
「何呆けてんだよ」
鮫島は続ける。
「別にあの子がどうなろうと関係ないだろ。お前あの子のこと憎んでるわけだし」
そのとおりだ。だがこの落ち着かなさは何だ。とてもじゃない。座っていられない。
階段に向かおうとする俺の手首を鮫島がつかんだ。
「どこ行くの?」
答えない。上下に腕を振る。
「いくらなんでもいい加減帰ったと思うよ。ほら」
鮫島はズボンのポケットから携帯を取り出すと、開いて見せた。
「三時半だ」
確かにそこには十五時二十八分と表示されている。
耳にまで届く心臓の音。落ち着けようと深呼吸する。だが腹の中に一度起こってしまった感情は消えない。思わず漏れる舌打ち。
それを冷ややかに見つめていた鮫島は、さっきより声色を強めて言った。
「もう一度だけ聞くよ。雅ちゃんはどうすんの?」