聖2〈5月14日(金)①〉
文字数 624文字
聖二、五月十四日(金)
一
あの時。ファミレスで会長と別れた後、やり方が強引だったと反省したのはしばらく経ってからだった。
生乾きのまま立ち寄った公園。腰掛けたベンチは、身体を動かすたびに細かな音を立てる。背もたれに寄りかかると空を見上げた。
視界の上半分を覆う黒い木々。しなる枝。日が落ちるのを見計らって、空気中の水分が濃
度を上げる。街灯はここから遠い。弱々しい光が足下を照らした。瞬く星。光が直に届くの
は澄んだ空気の成せる業。ゆるりと流れる風に付けて、届けと願う。
スズナ。僕はここにいるぞ。変わらず君を想って。
目を閉じる。
今度こそ、護る。
最初に目を奪われたのは、その立ち姿だった。
大会議室の前で立ち話をしていたその人は、用が済むとこちらに向かって歩いて来た。目的だけを見つめて歩く、一切無駄のない動き。
すれ違う。彼女を取り巻く風に当てられる。引き寄せられるようにして振り返る。無意識。身体が全く言うことをきかない。造作は似ても似つかない。「彼女」の方がずっといじりやすい顔をしていた。しかし後ろ姿だけはまるで本人だった。ああ、と思う。
「彼女」もそうだった。そんな歩き方をした。まっすぐな背筋、そこから滲み出す感情。ふり返る時「彼女」もまた笑いはしなかった。僕を認めてようやく頬を緩めた。泣きそうな笑い方をする子だった。
開け放たれた窓から、まだやや冷たい風が流れ込む。
その人が向かったのは生徒会室。その翌月、僕は生徒会に入る。
一
あの時。ファミレスで会長と別れた後、やり方が強引だったと反省したのはしばらく経ってからだった。
生乾きのまま立ち寄った公園。腰掛けたベンチは、身体を動かすたびに細かな音を立てる。背もたれに寄りかかると空を見上げた。
視界の上半分を覆う黒い木々。しなる枝。日が落ちるのを見計らって、空気中の水分が濃
度を上げる。街灯はここから遠い。弱々しい光が足下を照らした。瞬く星。光が直に届くの
は澄んだ空気の成せる業。ゆるりと流れる風に付けて、届けと願う。
スズナ。僕はここにいるぞ。変わらず君を想って。
目を閉じる。
今度こそ、護る。
最初に目を奪われたのは、その立ち姿だった。
大会議室の前で立ち話をしていたその人は、用が済むとこちらに向かって歩いて来た。目的だけを見つめて歩く、一切無駄のない動き。
すれ違う。彼女を取り巻く風に当てられる。引き寄せられるようにして振り返る。無意識。身体が全く言うことをきかない。造作は似ても似つかない。「彼女」の方がずっといじりやすい顔をしていた。しかし後ろ姿だけはまるで本人だった。ああ、と思う。
「彼女」もそうだった。そんな歩き方をした。まっすぐな背筋、そこから滲み出す感情。ふり返る時「彼女」もまた笑いはしなかった。僕を認めてようやく頬を緩めた。泣きそうな笑い方をする子だった。
開け放たれた窓から、まだやや冷たい風が流れ込む。
その人が向かったのは生徒会室。その翌月、僕は生徒会に入る。