飛鳥5〈8月1日(日)⑤〉
文字数 436文字
五
家に帰ると一通の封書が届いていた。中身は進路希望調査だった。締め切りは八月十五日。
進路・・・・・・ねぇ・・・・・・。
自分の部屋に戻ると、そのままベッドに横になった。
〈火州、お前大学に行く気はないか?〉
休みに入る前に聞いた前田の言葉がかすめる。まさか社会以外、何か武器になるような科目は俺にはなく、流したつもりだった。
〈まだ夏だ。今からならどうにでもなる〉〈火州、お前なら頑張れると思うぞ〉
前田は気のない返事しかしない俺に対して、それでも熱心に声をかけた。そんな奴の姿を見て、他のセンコウがあきれているのを知っている。その労力を他の真面目な生徒に使えよ。とでも言いたげな。
〈火州〉
ほっとけよ。用紙を顔の上に乗せて目をつぶる。社会、は、嫌いじゃない。
〈物事の背景を知ることは、その人間をより深く、豊かなものにする〉
前田はそう言って、俺を褒めた。
寝返りをうって起きあがる。俺は用紙をしばらく見つめた後、机の上に置いた。