聖6〈8月15日(日)⑤〉

文字数 976文字



  五

 十三時。食品を扱う建物の前がほんの少しだけすいたので、お昼にすることにした。先にパラソルに戻ってきた男は、二人とも全身真っ赤だ。それは体内から発せられる熱によるものか、それとも純粋に表面が焼けているものなのか分からない。
「暑いー」
「何でお前ら海入んねぇんだよ」
 修行か? と高崎先輩が笑う。
 その後「違ぇよ」と返す鮫島先輩とのやりとりを尻目に、僕は視線をかえる。
 火州先輩がクーラーボックスを開けてスポーツドリンクを手に取った。落ちてきた前髪を両手で後ろに撫で付ける。その仕草は、何でもないことのはずなのにすごく色っぽい。元々褐色だった肌が汗で光っている。海パンまでぐっしょりだ。さっき高崎先輩は「話を引き出す」どうこう言っていたが、それ以前にこんな男だったらいろんな目的で引き寄せられてくる女性が多いのではないだろうか。
「珍しいな、お前らが動くなんて。普段なら絶対動かないくせに」
 それに反応したのは、やはり鮫島先輩だ。
「いや、鈴の鳴る声が聞こえたから、つい引き寄せられちゃって」
 おうおう。黙れパブロフの鮫。
 そう言って口の端を吊り上げる鮫島先輩は、パラソルの下、うつぶせに寝転んでいる。
 もはや白いを通り越して青白かった肌が真っ赤に焼けている。つるんとした肩。浮き出たあばら。火州先輩と違って細身ではあるが、その分無駄な肉は一切ついていない。こっちはこっちで女形が似合いそうな色気が漂う。
「あたしのバッグこの辺でしたっけ?」
 その後、少し遅れて女性二人も戻ってきた。額を掻き上げても横髪はしっかり張り付いたままだ。その毛先、首元を流れる汗は胸の陰りを通って水着のストラップにぶら下がり、したたり落ちる。その強すぎる刺激に、僕も落ちる。
「タオルタオル」
 そうですね。早いところ何か身につけて下さい。近いから。ほんと、近くに危ないのいるから。
 ようやく自分の荷物からタオルを取り出すと、会長は身体を拭った。足元に置いたのは日焼け止めだ。後で塗り直すのだろう。
「た、タオルタオル」
 一歩遅れてバッグをあさる草進さんは、元々一枚薄手のパーカーを羽織っているため、鮫島先輩程暴力的な焼け方はしていない。ただ、汗を拭うのを見た時、外したメガネの形にうっすら跡が出来ていた。あどけない逆パンダのようだ。


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登場人物紹介

草進真琴(そうしんまこと)

高一女子。モットーは「私はただの高校生。それ以上でもそれ以下でもない」

6月10日生まれ、A型。


作画、いく。

火州飛鳥(ひしゅうあすか)

女嫌いの高三。美形。

9月2日生まれ、B型。


作画、いく。

鈴汝雅(すずなみやび)

男嫌いの高二。美人。

3月3日生まれ、O型。


作画、いく。

水島聖(みずしまひじり)

病んだ高一。思い込みが激しい。

6月27日生まれ、A型。


作画、いく。

鮫島勤(さめじまつとむ)

高三。飛鳥の友人。

2月2日生まれ、AB型。


作画、いく。

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