真琴6〈8月15日(日)①〉
文字数 903文字
真琴六、八月十五日(日)
一
さくさく進む。さくさく進む。砂の世界をさくさく進む。
どきどきする。どきどきする。痛いくらいにどきどきする。
「わっ」
砂に足をとられ、バランスを崩す。危なかったが、転ばず済んだ。
さくさく進む。さくさく進む。砂の世界をさくさく進む。
どきどきする。どきどきする。痛いくらいにどきどきする。
熱い背中。襟元をかき集め、ただひたすら来た道を返す。明るい夜空。けれども油断は禁物だ。街灯に寄って歩く。火州さんはよく見えてたんだなー。鳥目じゃないのか。なんて。
どきどきする。どきどきする。痛いくらいにどきどきする。
その正体は。
私は強い恐怖に支配されていた。
知ってる? 想像によって作られるものほど、怖いものはないんだよ。
先輩。先輩に何て言おう。帰ったらきっと尋ねられる。他に女の人はいないのだから、必然的に「誰と」と聞かれるだろう。もし今先輩が水島君や鮫島先輩や高崎先輩に会っていたらどうしよう。その時点で私が火州さんと一緒にいたことがばれてしまう。
〈ウィンウィンよ〉
我ながら軽率だった。私は先輩と手を組んだ以上、先輩の気持ちを知っている以上、必要以上にあの人に関わってはいけなくて。言い訳を考える。「メガネを見つけてくださった」まずはその事情を説明しよう。そんでもって先輩を褒めておいたと伝えよう。何たる自己保身。だってしょうがないのだ。私は誰にも嫌われたくないのだから。
火州さんは風呂上りのためか、いつも上げている前髪を下ろしていた。鼻先までかかる長さ。邪魔になるのか話をする時何度も掻き上げた。メガネをかけ直した後に見たそれは、月の光を受けて、透き通るようだった。明るい茶。パラパラと元に戻ろうとするそれは、まるでライオンのたてがみ。その目は信じられないほど穏やか。とにかく、そんな一面を見てしまったなどとは、決して言ってはいけないのだ。
さくさく進む。さくさく進む。砂の世界をさくさく進む。
どきどきする。どきどきする。痛いくらいにどきどきする。
明るい星空、あなたを想う。
愛し、愛し、あなたを想う。
一
さくさく進む。さくさく進む。砂の世界をさくさく進む。
どきどきする。どきどきする。痛いくらいにどきどきする。
「わっ」
砂に足をとられ、バランスを崩す。危なかったが、転ばず済んだ。
さくさく進む。さくさく進む。砂の世界をさくさく進む。
どきどきする。どきどきする。痛いくらいにどきどきする。
熱い背中。襟元をかき集め、ただひたすら来た道を返す。明るい夜空。けれども油断は禁物だ。街灯に寄って歩く。火州さんはよく見えてたんだなー。鳥目じゃないのか。なんて。
どきどきする。どきどきする。痛いくらいにどきどきする。
その正体は。
私は強い恐怖に支配されていた。
知ってる? 想像によって作られるものほど、怖いものはないんだよ。
先輩。先輩に何て言おう。帰ったらきっと尋ねられる。他に女の人はいないのだから、必然的に「誰と」と聞かれるだろう。もし今先輩が水島君や鮫島先輩や高崎先輩に会っていたらどうしよう。その時点で私が火州さんと一緒にいたことがばれてしまう。
〈ウィンウィンよ〉
我ながら軽率だった。私は先輩と手を組んだ以上、先輩の気持ちを知っている以上、必要以上にあの人に関わってはいけなくて。言い訳を考える。「メガネを見つけてくださった」まずはその事情を説明しよう。そんでもって先輩を褒めておいたと伝えよう。何たる自己保身。だってしょうがないのだ。私は誰にも嫌われたくないのだから。
火州さんは風呂上りのためか、いつも上げている前髪を下ろしていた。鼻先までかかる長さ。邪魔になるのか話をする時何度も掻き上げた。メガネをかけ直した後に見たそれは、月の光を受けて、透き通るようだった。明るい茶。パラパラと元に戻ろうとするそれは、まるでライオンのたてがみ。その目は信じられないほど穏やか。とにかく、そんな一面を見てしまったなどとは、決して言ってはいけないのだ。
さくさく進む。さくさく進む。砂の世界をさくさく進む。
どきどきする。どきどきする。痛いくらいにどきどきする。
明るい星空、あなたを想う。
愛し、愛し、あなたを想う。