飛鳥5〈8月1日(日)③〉

文字数 1,348文字



  三

 かげろう。手を日傘に見立てて行き交う人はせわしない。ここに来て早一時間。今さらという話ではあるが「何か食うか?」と尋ねる。高崎はうれしそうに「じゃあ俺イチゴパフェ」と言う。おっさん自重。丁度通りかかった店員を呼び止めて、イチゴパフェとヨーグルトサンデーを頼む。俺も大概か。
「で?」
 店員が去ったのを見計らって、高崎が口を開く。
「それはそうとお前、鮫と何があった?」
「・・・・・・」
 ここから近くのタバコ屋まで往復二十分はかかる。大きく息を吸った。
「・・・・・・あの日、鮫島に怒られた」
 言い草が面白かったらしく、高崎が「ふ」と笑う。
「あの日、って?」
「保健室の事件があったあの日だ。いい加減はっきりしてやれって」
「何を?」
「・・・・・・鈴汝を。俺がいつまでもはっきりしないから、あんなことになったんだ。いい加減にしないと、このままじゃかわいそうだ、って」
「・・・・・・このままじゃ、ってことは今もまだ何も変わってないんだな?」
 ぐっと押し黙る。
「いや、お前を責めてるわけじゃないぜ? なんか、前に鮫が妙なこと言ってたからさ」
「何?」
 高崎は左手であごをなでると、息をついて言った。
「この間の花火あったろ? あん時俺鮫と行ったんだけどな、その帰りにあいつ何からしくないこと言ってたから」
 俺は自然と前のめりになる。
「うん。『面白い奴見つけた。水島っていうんだけど、どうやら雅ちゃんのこと好きらしいんだ』って」
 水島・・・・・・真琴のクラスメイトじゃないのか? そいつが、鈴汝を?
「なぁ、どう思う?」
「あ? あぁ」
 鮫島はあの時水島に会ったのか? 鈴汝も? その時高崎は一緒じゃなかったのか?
 その時、場違いに陽気な声とともに頼んだものが届いた。全神経がデザートに向く高崎をムリヤリ話に戻す。
「ただ単に人の恋愛にチャチャ入れてるだけのことだが、あの鮫がだぜ?」
 ちょっと待て。何が言いたいのかよく分からない。戸惑いに気づいた高崎が話をかみ砕く。
「鮫が気に入った人間以外に全く関心を示さないのは、お前も知ってるだろ? なら無関心な人間のことなんて、わざわざ口にしないだろ? 水島なんて名前は俺もそのとき初めて聞いた。そもそも関わりのない相手に鮫が自ら近づくなんて、お前が自ら女に寄ってくのと同じくらいの怪奇現象だぜ?」
 その目元が楽しそうに細まる。俺は苦笑いした。
「じゃあ例えばそれが、誰か、を通じて知り合った相手だとするなら?」
 俺は、やはりよく分からない。
「仮に」
 そこで一旦言葉を切った。その上体を反らし、首をねじって後ろを振り返る。
「雅ちゃんを挟んで、の間柄だったとしたら?」
〈雅ちゃんはさ、構って欲しかったんだよ、きっと〉〈なぁ火州お前、いい加減どっちかにしてやれよ〉〈あのままじゃ、かわいそうだ〉
 鮫・・・・・・島・・・・・・?
「だーもう、暑いっつの! マジで。ありえねぇ、ありえねぇ」
 半そでをさらに捲り上げて、鮫島が戻ってくる。高崎がそれを受けて「今日はおうちで過ごす日だぜ」と笑った。
「はい、お待たせ。続き話していーよ」
 鮫島は再びどっかりと腰を下ろすと、タバコのパッケージをはずす。


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登場人物紹介

草進真琴(そうしんまこと)

高一女子。モットーは「私はただの高校生。それ以上でもそれ以下でもない」

6月10日生まれ、A型。


作画、いく。

火州飛鳥(ひしゅうあすか)

女嫌いの高三。美形。

9月2日生まれ、B型。


作画、いく。

鈴汝雅(すずなみやび)

男嫌いの高二。美人。

3月3日生まれ、O型。


作画、いく。

水島聖(みずしまひじり)

病んだ高一。思い込みが激しい。

6月27日生まれ、A型。


作画、いく。

鮫島勤(さめじまつとむ)

高三。飛鳥の友人。

2月2日生まれ、AB型。


作画、いく。

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