真琴4〈7月25日(日)②〉

文字数 1,206文字



  二

 花火に隠れてもう一度ため息をつく。
 思えば夏休みに入ってしまったら、部活の練習日が合わない限り水島君に会える機会がないからと、軽々飛びついてしまったのがそもそものあれな訳で。確かな情報か、本人に確かめもせず行動してしまったのがあだとなった訳で。
 ドン。
 花火も後半、結局あたしは一度も水島君と顔を合わせることなく帰るはめになりそうな雰囲気で。
 はぁ。とうなだれる。おかまいなしに腹に響く花火の音。斜め前を歩いている火州先輩は、あれっきり一言も話さない。そもそも何でこの人に付き合う羽目になってしまったのか。私はりんご飴が食べたかったのに、引きずり回されるや否や、焼きそばとか、たこ焼きとか、炭水化物しか見て回らなかったし。
「せっかく、来てんだから」と言われても、そう簡単に顔は上がりそうにない。今日こそ言おうと思っていたことさえ、とうとう言えずに終わりそうだ。「約束してください」と言ったあの時、本当は続けて「もう関わらないで下さい」と言うつもりだったのに、最後まで口に出来なかった。
 それは相手があの人だからという話ではなく、私の持つ性質として根本的に人に嫌われるのを恐れるためだ。例えそれが自分にとってそこまで関わりのない相手であっても、どう思われているかを気にしてしまう。疎ましく思われることがどうしても我慢ならない、所謂八方美人なのだ。
 見上げる。約束したとおり、手を上げられることはなかったが、今火州先輩はどう思っているのだろう。真相は分かったのだから、もうこれでおしまいにしてくれるのならいいのだけれども。
「お前」
 驚きに肩が震えた。突然振り返るとかやめてほしい。
「連絡先教えとけ」
 数秒前にかけていた淡い期待が音を立てて崩れ去っていく。
 何で。どうしたらそうなる。まだ何かあるのか? 今度こそ、殺られるのだろうか?
「別に特別な意味はない。あれだ、もしもの時のためだ」
 よく分からない。それにもし「もしもの時」に遭遇したとしても、火州先輩に連絡する事はまずない。っていうか、そんな度胸ない。こうなったら奥の手だ。
「わ、私今日携帯家に忘れて・・・・・・」
 白々しく言おうとした時、花火の合間という絶妙なタイミングでメールの着信音が鳴り響いた。
「・・・・・・なかったです。あはは」
 誰だー! こんな時にー!
〈明後日練習午後からに変更だって☆ 頑張ろうね〉
 千嘉ちゃーん!
「よし、貸せ」
「あぁっ」とも言えず、強引に携帯を奪われる。
「・・・・・・よし。番号入れといたから。ちゃんと出ろよ」
 そんなぁ!
 ぽいっと返された携帯は、今まで使ってきたものとは思えなかった。花火がそれを七色に照らす。どうやら恐怖の大王はピンポイントで私目がけて落っこちてきたようだ。しかもご丁寧に一人時間差で。あれは日本女子バレーの大友選手が得意だった。違うか。


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登場人物紹介

草進真琴(そうしんまこと)

高一女子。モットーは「私はただの高校生。それ以上でもそれ以下でもない」

6月10日生まれ、A型。


作画、いく。

火州飛鳥(ひしゅうあすか)

女嫌いの高三。美形。

9月2日生まれ、B型。


作画、いく。

鈴汝雅(すずなみやび)

男嫌いの高二。美人。

3月3日生まれ、O型。


作画、いく。

水島聖(みずしまひじり)

病んだ高一。思い込みが激しい。

6月27日生まれ、A型。


作画、いく。

鮫島勤(さめじまつとむ)

高三。飛鳥の友人。

2月2日生まれ、AB型。


作画、いく。

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