聖4〈7月25日(日)③〉

文字数 915文字



  三

「飛鳥様、こっちです」
 ざわめき。割れた人波から見て取れたのは恐れや羨望。この先手をあげたのはイイ感じにイケイケな輩だった。明るい髪色に首元の開いたモスグリーンの浴衣。身長は周りの人たちより頭一つ分抜けている。僕の目線の高さは、その人の喉元辺りだった。
「真琴はまだか?」
 真琴?
 サングラスを外す。彫りの深い、期待を裏切らないいい男だった。歩いて来る途中ですれ違った女性数名は、まだその背中に熱い視線を送っている。一体何者なんだ。
「・・・・・・はい。まだ来ておりません」
 会長の声のトーンが明らかに下がる。
 真琴って・・・・・・もしかして草進さんのことか?
「もう半、十分も過ぎてるぞ」
 あいつ迷子になってるんじゃないだろうな、と独りごちる。その後その人はようやく僕の存在に気づいた。目を細める。
「・・・・・・どっかで見たことある顔だな」
 無意識のうちに身体が強張る。
「あ、はい。前に保健室で」
「あー・・・・・・あん時の。悪かったな。怪我しなかったか」
 胸元を直しながら言う。絶対、口にしているようなことは思っていない。
「・・・・・・はい」
「そうか」
その人は顔を上げると、再び会長の方を向き直った。
「鈴汝、俺ちょっとあいつ探しに行ってくるわ」
「え?」
 そうして僕の時とは明らかに違った眉のゆがめ方をした。
「そんな。こんな人混みの中じゃかえって入れ違いになってしまいますよ」
「いや、一応神社前とは言ったんだが、××神社っていうのを伝え忘れた。もう一つのほう行ってるかもしれない」
「花火って言ったらここでしょう? そもそも来てもいないのかも・・・・・・」
「あぁ。でも行くだけ行ってくる。先回ってていいから」
 一方的にそう言い残すと、その人は来た道を戻っていってしまった。心なしかさっきより歩幅が大きく、見えなくなるのが早かった気がする。残された側の僕は、とりあえず会長に聞いてみる。
「・・・・・・えっと、どっか回りましょうか?」
 会長は潤んだ目で精一杯にらみつけてきた。そんな顔さえかわいいなぁ、と思ってしまう時点で、僕はある種病気なんだろうなとぼんやり思った。


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登場人物紹介

草進真琴(そうしんまこと)

高一女子。モットーは「私はただの高校生。それ以上でもそれ以下でもない」

6月10日生まれ、A型。


作画、いく。

火州飛鳥(ひしゅうあすか)

女嫌いの高三。美形。

9月2日生まれ、B型。


作画、いく。

鈴汝雅(すずなみやび)

男嫌いの高二。美人。

3月3日生まれ、O型。


作画、いく。

水島聖(みずしまひじり)

病んだ高一。思い込みが激しい。

6月27日生まれ、A型。


作画、いく。

鮫島勤(さめじまつとむ)

高三。飛鳥の友人。

2月2日生まれ、AB型。


作画、いく。

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