飛鳥4〈7月25日(日)④〉
文字数 955文字
四
光が、さまざまな色が、その身体を照らしては消えていく。真琴はそんな明るいものから目を背けると、うつむいたまま口を開いた。
「・・・・・・約束、して下さい。暴力はふるわない、と」
つかんでいる肩の、奥のほうが震えているのが分かった。俺は突然の申し出に驚く。やっと今まで俺が求めていた答えが聞けるかもしれない。しかし何故だか俺の心臓は嫌な音を立て始めた。言葉にならない感覚が、それでも確実に「拒否」に属する感情が渦巻き始める。
「どうした」
「火州先輩の知りたがっていたことを、お話しします」
その顔が上がる。その目はさっきまでと同じものだと思いがたいほど、しっかり芯を持っていた。
花火の音が、腹に響く。まるでボディーブローのように、それはじわじわと効いてくる。俺は肩をつかんでいた手を離し、元々座っていた位置に戻った。
決して、気圧されたのではない。
パラパラパラパラと無数の花火が散っていく。ここは露店から外れたところにあるため、それ以外の音は遠く聞こえる。
「ちょっと待ってろ」
そう言うと俺は、再び立ち上がって携帯を取り出し、二、三歩前に進み出ながら着信履歴のカーソルを下へと送っていった。目的の名前を見つけて発信する。数回の呼び出し音の後、その聞き慣れた声に耳を傾けた。
「あー俺だ」
数日前、高崎に一緒に花火に行かないかと誘われた。俺は断ってしまったが、鮫島と一緒なのは分かっていた。こういう時、頼み事をするなら鮫島に限る。後から事情を話しさえすれば、あいつは余計な事をイチイチ言わない。いつでも二言返事で了解してくれる。
「分かってる」
電話越しにため息交じりに聞こえてくるその声は、なんだか懐かしい感じがした。あれ以来顔を合わせていないからだろうか。用件を伝える。
違和感というか、いつもよりどこかよそよそしい感じがするのは、自分自身の後ろめたさのせいだろう。自然と早口になる。俺は一方的に電話を切ると、携帯を閉じて真琴を振り返った。
その足はちゃんと地面まで届いていなかった。それでもきちんと膝をそろえて、本当に人形のようだ。
コイツは本当に着物が良く似合う。白く煙った空を見上げた。
「・・・・・・分かった。約束する」
俺は静かにそう口にする。