飛鳥4〈7月25日(日)⑥〉
文字数 614文字
六
花火がピタリと止む。代わりに訪れたのは、静けさと、深い闇だった。少し先にいる真琴のシルエットだけが、ぼんやりと浮き上がる。
俺は沈黙に耐えかねて声に出して息を吐くと、頭の後ろで手を組んだ。相変わらず心臓がうるさい。遠く、鈴虫の声が聞こえる。時々気付いたように流れ込んでくる風は、その独特な匂いを残していく。
「あの・・・・・・」
沈黙に慣れた頃、再びその口を開く。目をやると、いつものようにせわしなく「あ、その、もういいですか? お話も終わったことですし」と言った。おもむろに携帯を取り出して見てみると、なるほど、もう二十時を回っていた。
「あぁ」
俺は携帯を閉じると同時に立ち上がった。それに合わせて真琴も立ち上がる。
外に出ると風が心地よく感じた。それは優しく頬をなでていく。再び花火が始まる。
ドン。
心臓が、痛い。
ドン。
真琴はうつむきがちに斜め後ろを付いてくる。俺は立ち止まると、追いついて来るのを待って、「貸せ」と言った。真琴は目を見開いて顔を上げる。その手からビニール袋を取ると、再び歩き出した。
「お前、花火見ろよ」
何でそんなこと言ったのか、俺にもよく分からない。息を呑む気配がした。
「せっかく、来てんだから」
そう言いながら、俺自身も上を向く。真琴は小さく「はい」と言うと、微かに息を吸った。
ドン。
花火の合間に聞こえてくる、優しい虫の音。火薬の匂い。橙の光。
俺はゆっくりと、鈴汝たちの元へ向かった。