真琴3〈6月19日(土)②〉
文字数 855文字
二
いや、決して忘れていたわけじゃない。
あれだよ。部活のことで頭がいっぱいになっていて、別に意図して忘れようと思っていたわけじゃない。
この瞬間まで、本当に忘れてたんだ。あれ。
三時間目の授業が終わると、そのほとんどの人達は部室に行って昼ご飯を食べる。残るのは部室を持たない文化部か帰宅部の人達だ。そうして教室から人が減っていく途中、例の声が聞こえた。
「草進真琴はいるか」
初期に比べ状況に慣れつつあるざわめきは、単純な好奇の目。油断していた分、ショックが大きい。だって今週はすでに来ていた。今週の始めにもう「済」のスタンプ押してありますよって見せてやりたい。でも実際そんなことできっこないから、せめてもの抵抗でスッと息を止めて気配を消す。
「おい」
しかし実体としては存在してしまっている以上、無駄である。分かってる。それでも一縷の望みにかけたかった。無理だと分かっていてもかけたかったんだ。
「返事しろよ」
その後その人は、遠く来世を見つめて佇む私の頭をポンポンポンポンポンポンポンポンとまぁ、叩くだけ叩いた。やめて私のライフはもう
「す、すいません・・・・・・・あ、あの、私今日部活で・・・・・・・部室でご飯食べるので・・・・・・」
ええい、とその手を払いのけながら、私は身体中の愛と勇気を振り絞って主張するものの、
「じゃあ行くぞ」
この上なくキレイにスルーされた。嘘でしょ。
そうして伸びてくる手を寸前でよけると、あわてて言う。
「わ、私今日部活で・・・・・・そ、その前に図書室に本、本返さなきゃいけなくて」
言いながら図書室のある方向を指す。一瞬示した先で不自然に人影が動いた気がした。
「ほ、ほら、この本です。なんで」
「分かった。じゃあ棟の玄関にいる」
そうじゃない!
お腹ん中で盛大につっこみを入れる。
「あ、あの・・・・・」
「五分だ。早くしろよ」
そう言い残すと、火州先輩は返事も聞かずに後ろのドアから出て行った。私は中腰のまま動けない。