鮫島勤①〈7月25日(日)③〉

文字数 951文字



  三

 やっと夕方が終わる。七月二十六日の十八時五十分。藍色の空には星の粒が散りばめられている。
「腹減った。見ろよ、お好み焼き」
 言われた通り見る傍ら、高崎は本能に忠実に露店めがけて走っていった。大の大人(笑)が人混みん中をだ。中身はそのまま、無駄に育った図体は、およそ周りに及ぶであろう迷惑を考えちゃいない。
 なんだかんだ言いながら結局来てしまう辺り、俺もずいぶんな暇人なんだけれども、さすがにこの人混みには参った。人ゴミと表記したいくらいだ。一緒に来たのがあいつでなければ、すぐに見失っただろう。百九十センチはダテじゃない。俺は歩いてその後を追う。頭さえちゃんと見えていれば何の問題もなかった。どうせ食いもん買ってる間に追いつく。
「っと」
 ぶつかりそうになってよける。揺れてきらめく髪飾り。今すれ違ったのは中学生ぐらいの女子だった。この辺りを行き交うのはほとんどが家族や友人連れだ。恋人同士はすでに調達を終えて川沿いに集まっているのだろう。丁度花火が始まる。
 それにしてもさすがに浴衣が多い。あんな子供でもきちんと髪までセットしているのだから、女の方がませてるというのは間違ってない。
 顔を上げる。白い歯が見えた。白のTシャツにジーパン。高崎はこのイベントに対する最大限の機動力と最小限の労力をかけた格好でやってきた。さすがだとしか言い様がない。そのケツのポケットから財布がはみ出ている。パンツと結合したチェーンがぶら下がっているからスリにあっても大丈夫だと言う。本当かは知らない。
 オレンジの光が立ち並んだ露店に目を向けた。射的、輪投げ、綿菓子。景品はどうしたって子供向けになる。あくびをかみ殺す。その時だった。
 視界の端を見覚えのある何かがスッとよぎる。残り香。確信してその名を呼んだ。しかし彼女は気付かない。丁度一発目が打ち上がった所で、その音にかき消されてしまったようだ。
 立ち止まり、彼女が走ってきた方向を見る。と、これまた見覚えのある人物を見つける。今し方駆け抜けていった彼女を探しているのだろう。しきりに辺りを見回しながらこっちに向かって来る。俺は再び歩き出した。彼女の向かった方角へ。さっきより少しだけスピードを上げる。
 水島は、まだ気付かない。


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登場人物紹介

草進真琴(そうしんまこと)

高一女子。モットーは「私はただの高校生。それ以上でもそれ以下でもない」

6月10日生まれ、A型。


作画、いく。

火州飛鳥(ひしゅうあすか)

女嫌いの高三。美形。

9月2日生まれ、B型。


作画、いく。

鈴汝雅(すずなみやび)

男嫌いの高二。美人。

3月3日生まれ、O型。


作画、いく。

水島聖(みずしまひじり)

病んだ高一。思い込みが激しい。

6月27日生まれ、A型。


作画、いく。

鮫島勤(さめじまつとむ)

高三。飛鳥の友人。

2月2日生まれ、AB型。


作画、いく。

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