聖5〈8月6日(金)④〉

文字数 1,189文字



  四

 そうしてそれは翌日の部活の後のことだった。午前中だけの練習を終えて、ゲームシャツで口元を拭いていると、
「み、水島君」
 体育館の逆半面側から声がかけられた。僕自身、丁度半面の境のところにいたのだ。振り返ると「体育館を区切るためのネット」越しに草進さんがいた。食い入るように見つめているのは僕のお腹だ。
「何?」
 声をかけることではじかれたように顔を上げると、草進さんは「あのね、」と言った。
「こ、こないだの花火で一緒になった、火州先輩いるでしょ?」
 火州・・・・・・あー例の飛鳥様ね。
「その、火州先輩から連絡あったんだけど、来週一緒に海行かないか? って」
 ・・・・・・え? 誰に? 草進さんに?
 草進さんは曖昧に微笑んで首を傾げる。そうして額に張り付いた前髪を梳きながら、
「うんと、行くのが水島君と、先輩と、火州先輩と、あたしと」
 それ皆行くのか?
 げんなりする。来週と言ったら試合の直後だ。確実に休みたい。
「あ、そうそう。高崎先輩と、鮫島先輩って人も来るって言ってたから、全部で」
「ちょっと待って」
 僕は一旦話しを止めると、大きく息を吸った。
 外気温は最高潮。熱気で麻痺する頭。それでも僕の中の何かを全力で振り絞った。
「さっき言った『先輩』って誰?」
 草進さんは両手を口元にやると、小さな声で「す、鈴汝さんです」と言った。どうでもいいが、何でそんなに人目をはばかる。やっぱりあの事件が尾を引いているのか。それはまぁいいとして、
「確認するね。もし行くとしたら、メンバーは草進さんと、僕と、鈴汝さんと、火州先輩
と、高崎・・・・・・先輩だっけ? と、鮫島先輩なんだね?」
 草進さんは一人一人丁寧にうなずいていていく。その後全員言い終わると、うれしそうにさらにこくこくとうなずいた。
 そうか。よく分かった。
「うん。僕も行くよ。伝えてくれてありがとう」
 そう伝えると、草進さんは一瞬固まったが、すぐに我に返って「全然」と首を振った。
「まだ具体的な日時は決まってないんだね。じゃあ、後でアドレス教えてくれないかな?」
 草進さんは「へ!」とよく響く声を出すと、再び固まった。そのメガネは半分曇っている。
「あああ、アドレスだねっ! 分かった! ちょっと待ってて、携帯とって来るから!」
 そう言ってすぐ様立ち去ろうとするその姿をあわてて呼び止める。
「あ、いいよ。部室の前にでもいて? 後で行くから」
 振り返ったその額から、尋常じゃない量の汗が流れ出る。
 新陳代謝良すぎじゃない? 逆に大丈夫か?
「そ、そう? わっかった。待っとくー」
 噛んだ。本当に大丈夫だろうか。
 まぁいいやと向き直り、体育館の入り口向かう。ハレーション。室内外の明度の落差に黒目が追いつかない。まぶしい太陽。まだ夏は始まったばかりだ。



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登場人物紹介

草進真琴(そうしんまこと)

高一女子。モットーは「私はただの高校生。それ以上でもそれ以下でもない」

6月10日生まれ、A型。


作画、いく。

火州飛鳥(ひしゅうあすか)

女嫌いの高三。美形。

9月2日生まれ、B型。


作画、いく。

鈴汝雅(すずなみやび)

男嫌いの高二。美人。

3月3日生まれ、O型。


作画、いく。

水島聖(みずしまひじり)

病んだ高一。思い込みが激しい。

6月27日生まれ、A型。


作画、いく。

鮫島勤(さめじまつとむ)

高三。飛鳥の友人。

2月2日生まれ、AB型。


作画、いく。

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