聖6〈8月15日(日)①〉
文字数 490文字
聖六、八月十五日(日)
一
勝手に焼津はにぎやかな町だと思っていた。
漁港があって、漁師がいて、だから競りがあって。いつでも活気ある声がこだましているのだと。だから最寄りと何ら変わらぬ駅に着いてバスに乗り込めば、まだ海の気配さえ感じられないこの段階でのその期待は、甚だ重い荷だと思い知らされた。
日本はまだサムライの闊歩する国だと思っている外国人もいると言うが、自国の、自県の、ほんの一時間圏内の場所に対するイメージだってそんなものなのだ。たった百五十年の史実の誤差など、ないに等しい。
バスを降りると南に向かう。道路沿いに立ち並ぶ瓦屋根の家、コンビニの裏にある換気扇を並べているアパート、明朝体で書かれた黄色の看板「しおさい」
中には新しそうな家もあるが、端をとった瓦屋根のオセロ効果か全体的に一昔前の町並みの印象を受けた。民家の中に工場も並んでいる。突き出た二本の煙突がなければ、あるいは気づかなかったかもしれない。大通りを進むと橋が見えてくる。
いい天気だった。真っ青な空。進む先がまっすぐ朝日を受けて輝いている。僕は軽い足取りで歩を進める。