雅6〈8月15日(日)④〉

文字数 745文字



  四

「先輩・・・・・・海行きませんか?」
 海に向かった高崎先輩と水島はバナナボート的な物をレンタルしたようだ。浮き輪の代わりに使って遊んでいる。飛鳥様は食事を済ませると、高崎先輩の上着にまるっと包まれた鮫島先輩の隣に横になって、仲良く寝息を立て始めた。
「先輩、海・・・・・・」
 時刻は十五時十分前。それでも最も日の長い時期は過ぎたらしい。早くも夕方の気配が漂う。心なしか海に浮かぶ人のシルエットが濃くなる。
「先輩」
「うるさいわね。勝手に行ってくればいいでしょう」
 飛鳥様が近くで眠っている手前、声というよりかは目で訴えると、草進真琴は「すいません・・・・・・」ともっと小さい声で返した。うつむいた顔は本当に残念そうだ。大方水島と遊びたいのだろう。確かに形としては手を組んでいる。しかしさっきの一件もあって、あたしとしては面白くない。それに足場の悪い砂浜を合計一時間近く歩いたのだ。あんな所まで行く元気は残っていない。
「わ、私飲み物買ってきますね」
 その後唐突にそう言うと、草進真琴は立ち上がった。着ているグレーのパーカーがひらりと揺れて、内側の水色と淡い黄緑の柄の入った水着が見えた。白い肌。赤みを帯びているものの、それさえうらやましいほど、透き通るような。
「何か、欲しいものありますか?」
 海を見たまま「結構よ」と言う。うなずく気配がする。その後サンダルを履いて、パラソルの下から出て行った。視界の端にその姿を映したまま、小さく息を吐く。
 別にあの子が何をしたって訳じゃない。あの子が悪い訳じゃない。でもそれは頭では分かっていてもどうしようもない。
 どうしてあの子なの? ねぇ、飛鳥様。
 高く、遠い、くすんだ青い空を見上げる。
 声は、届かない。


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

草進真琴(そうしんまこと)

高一女子。モットーは「私はただの高校生。それ以上でもそれ以下でもない」

6月10日生まれ、A型。


作画、いく。

火州飛鳥(ひしゅうあすか)

女嫌いの高三。美形。

9月2日生まれ、B型。


作画、いく。

鈴汝雅(すずなみやび)

男嫌いの高二。美人。

3月3日生まれ、O型。


作画、いく。

水島聖(みずしまひじり)

病んだ高一。思い込みが激しい。

6月27日生まれ、A型。


作画、いく。

鮫島勤(さめじまつとむ)

高三。飛鳥の友人。

2月2日生まれ、AB型。


作画、いく。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み