聖6〈8月15日(日)⑦〉
文字数 654文字
七
その後かき氷の暖簾の揺れている建物のところまで来ると、六人分の焼きそばとかき氷を買った。かき氷は鮫島先輩の分だけにしたつもりが、
「あたしもかき氷食べたいなー。鮫島先輩に言ったらちょっと分けてくれるかな」
と言うので急遽もう一つ買うことにした。鈴汝さんはいちごシロップのかかったかき氷を片手に、にっこり笑う。たぶんこの人分かってない。あの人に「かき氷分けて」なんて言ってみろ。「じゃあ分けてあげるよ、口移しで」とか「え、お返しに君食べちゃっていい?」とか言いかねないあの人なら。
〈鈴の鳴る声が聞こえたから〉
なんだかんだでこの人が最強だと思うんだよね。僕は悔しくなって聞いてみる。
「鈴汝さん」
「何?」
振り向いた顔には「荷物なら持たないわよ」としっかり書かれている。
「鈴汝さん、何か動物飼ってますか?」
唐突な質問に目を丸くする。その後首をかしげると、
「前にハムスターは飼ってたけど、今は何も飼ってないわ」
と答えた。そうして逆に「何で?」と問う。歯の隙間から見える舌はショッキングピンク。
「いえ、きっとそういうの飼い慣らすの上手だろうな、と思いまして」
もう一口含んで、スプーンをくわえたそのままの格好で「何で?」と同じような調子で口にする。その無防備な表情。プラスなのか、マイナスなのか、僕の中に漂っている感情全ては区分しきれない。でも
「だって現に飼い慣らしてるじゃないですか」
「何を」
僕は鼻に声をかけて、わざとおどけるようにして言う。
「鳥と、鮫」