真琴1〈2004年4月8日(木)①〉
文字数 751文字
真琴一、四月八日(木)
色づく。
見覚えがあるのは、背景が違っても引き寄せる媒体があるから。点と点を結ぶもの。点そのものに個性はなく、ただの呼称に紐付く。
桜が色づく。四季を巡って、何度でも何度でも「この場所」へ戻ってくる。
何度だって、人は恋をする。
一
一陣の風が吹き抜けた。反射的に首をすくめていた季節はいつの間にか過ぎゆく。
やっとのことで坂を上り切り、目的地に辿り着く。
県立緑風高等学校。
校門、石檀のそばに身を寄せると、目の前を颯爽と学生が横切った。その角のよれたバッグに記された「二十三」の字は二年三組。ここでは二ケタの数字で所属を表す。私の所属は「十二」今日からまた一年生。
「真琴」
まっすぐな髪が肩の上で揺れる。上地慶子は中学二年生の時からの友人だ。打ち解けやすい反面、おせっかいな所もあるが、何より一緒にいて気疲れせずに済む。
気づけば昼近く。時刻は十一時四十五分を回る。今日は初日のため半日で終わりだ。
机の中を整理している間にも目の端を刺激し続けている強い光。窓の外で成長期真っ只中の草木が揺れていた。薄く開いた窓から、まだ若干冷たさの残る風が教室内を巡る。さすが「緑風」と名がつくだけあって、窓の額縁には緑しか映らない。
そういえば緑は目にやさしいと聞いたことがある。ゴルフをしていて視力が回復した例もあるとかないとか。でもじゃあはたしてそれは本当に色としての緑による効果なのだろうか。だとしたら光を受けて飲み込めない色を外に出している訳だから、草木にとっての緑は、ある種毒なのかもしれない。毒、は言い過ぎか。私自身、肌色を毒だなんて思ったことがない。
「真琴、帰ろ」
「うん」
慶子の声に合わせて立ち上がる。その時だった。