真琴2〈6月14日(月)④〉
文字数 954文字
四
危なかった。水島君は今まさに教室を出る所だった。掃除から帰ってきたそのままの足で呼び止める。
「み、水島君」
「何?」
振り返る。たったそれだけのことで今にも口から心臓が飛び出そうだ。目を合わせることが出来ず、指先を見つめながら続ける。
「あ、あの・・・・・・今日の・・・・・・宿題が、あっ、国語の。まだ水島君出してなかったみたいだから・・・・・・」
「今日、出せる?」と、やっとの事でそこまで言うと、顔を上げる。
水島君は「あ」と言うと、頬を掻いた。想定していた。私はすぐその心情を察して、「あ、忘れたんだったら」とすぐさま助け舟を出す。えっと、出せない人がいた場合、先生が言ってたのは・・・・・・そうそう。ポン、と手を叩いて言う。
「いい度胸してるな」
真空。一瞬大衆の場ではあり得ない無音の時間が流れた。
私は自分自身が言ったことを理解するまで、たっぷり五秒を要する。
「えっと・・・・・・ごめん」
たっぷりではあるが、それでも五秒で済んだのは水島君が言葉を発してくれたためだ。
「あ、えと、そうじゃなくて」
大きく手を振る。声量以上に動作がうるさくなるのは、伝えたい思いが他の人より多いためだ。
「あ、ああ明日! 明日お願いね!」
やっとの事でそう言うと、水島君は軽く頭を下げて教室を出て行った。その姿が見えなくなると同時にため息をつく。松下さんはもう教室に残ってはいなかった。
それにしても。あの言い方はないだろう。自分で自分につっこむ。
部活・・・・・・行かなきゃ・・・・・・。
「草進真琴いるか」
ああ! 今私本当につらいの! 本当につらいのに落ち込ませてさえもらえない!
嫌な予感大当たり。カレンダーを振り返る。まだ月曜日。今週早いやないかーい。
空が分厚い雲で覆われているため、暗くなるのがいつも以上に早い。強い雨音。
「すいません・・・・・・平日は部活なんです」
「そうか。じゃあまた来る」
だから放課後は基本部活なんだってば・・・・・・。たびたび訪れるいかつい兄ちゃんに、反復による多少の恐怖感の克服を感じる一方、何度訂正したって無駄だということも先に分かるようになってしまう。
涙の土砂降りの放課後。そうして私の明日が約束された。