聖2〈5月14日(金)②〉
文字数 762文字
二
五月の十五日、昼、生徒会室。
昼前の授業が予定より少しだけ早めに終わると、北校舎に向かい、英語の準備室に入る。ここは北校舎二階の東から二番目の教室だ。そこから南校舎二階の廊下を見つめる。
会長がどのクラスなのか僕は知らない。だからとりあえず捕まえておこうと思った。行動自体不審者そのものだが、あれから十日以上も経っている。向こうが忘れている可能性だってあった。
しまった。南と北の校舎をつなぐ渡り廊下が邪魔だ。ここからだと一~四組と、間を挟んで七、八組しか見えない。
チャイムが鳴った。窓越しに椅子を引く音が聞こえる。もう先生が何を言おうと授業は終わりだ。残念なことに、生徒が従っているのは主に最低限のルールと本能だ。昼食のにおいに逆らえる高校生などこの世に存在しない。まもなく生徒が廊下に溢れ出る。
「何やってんのよ」
口から心臓が飛び出るかと思った。反射的に振り返ると、会長が怪訝な顔をして立っていた。
「あ、えと、すいません」
とりあえず謝る。会長は肩まである髪を白いゴムで一つに束ねていた。耳の高さでまとめているため、ほぼ地面と平行に頭から突き出ている。チクチクとした毛先は当たったら痛そうだ。
「なんでここにいんのよ。約束はこんなとこじゃないはずよ」
言いながら腕を組む。
「せっかくあんたが忘れてたら行きたい所があったのに、あっちに鞄があったから行けなかったじゃない。あたし、自分が約束破るの嫌なの」
あぁ、と自分がここへ来る前のことを思い出す。確かに生徒会室に鞄を置いてきた。
その後会長はスカートを翻すと颯爽と英語準備室を出て行った。慌ててその後を追う。普段隠れているためか、なめらかさの際立つうなじ。赤茶色のおくれ毛、そのまっすぐな背中から放たれる声。
「二十分よ」