飛鳥1〈4月15日(木)③〉
文字数 990文字
三
「・・・・・・授業はどうした」
十五時。何となく近づく夕方。今は五限の時間帯だ。
「後半体調悪くなってサボっちゃいました」
満面の笑み。体調が悪いのが本当なら、サボったなんて言い方はしない。
「だめじゃねぇの、生徒会長」
「まだ会計ですよ。引継ぎは五月です」
そうして踊るように日のもとに出る。
鈴汝雅は二回生で次期生徒会長。でかい目に長いまつげ。小さな鼻に、細い顎。唇の左下にあるホクロ。まだ残る幼さも含めて美人と名高い。
「うん、いい天気。こんな時に室内にいるのもったいないですよね」
両腕を広げてする伸び。
鈴汝雅とは去年知り合った。きっかけは、帰り道たまたま通りかかった所で、野郎に囲まれていたのを助けたこと。別に困ってるヤツを見かけたら放っておけないって訳じゃない。むしろこの場合、鈴汝が特別だった。
「飛鳥様、タバコはゴミ箱にちゃんと捨ててください。基本吸ってはダメですけど」
言いながら足元に潰されたままになっていたタバコを拾い上げる。
「・・・・・・。・・・・・・あぁ、悪い」
そう応えると、鈴汝は太陽の光を受けてうれしそうに笑った。
〈何でなんだ?〉
高崎が言った。
〈何であの子じゃダメなんだ?〉
ダメって、別にダメじゃねぇよ。
〈もしかして火州、理想ものすごい高い?〉
鮫島も言った。今日高崎がいなくて良かった。いたらまた何か言われるに決まってる。
少しだけ風が出てきた。髪を押さえ、鈴汝は沈む夕日を見ている。柔らかい表情。
〈あの『別に』の人にちょっと似てない?〉
そう言っていたのは誰だったか。でも鈴汝の方が目が大きい分、やっぱり幼い。
〈何であの子じゃダメなんだ?〉
別にダメじゃないがあれだよ。お前らだってかわいきゃ誰でもいい訳じゃないだろ?
〈そりゃあ性格悪きゃな。だってほら、人気なきゃ生徒会長なんかできないぜ?〉
高崎はそう言うと「なぁ?」ととなりを見た。鮫島は地面にタバコを押しつける。否定はしなかった。
〈なぁ火州〉
立ち上がると同時に、その顔を上げる。
〈もうそろそろ落ち着いてもいんじゃね?〉
新しいタバコを取り出す。
〈お前は、早く知りすぎた〉
鮫島の言いたいことは分かった。高崎も目をふせる。
乾いたライターの音。鮫島が俺のために言ってるのは分かる。分かってはいるんだが。