鮫島勤①〈7月25日(日)②〉
文字数 1,123文字
二
高崎に女ができた。火州はまだ知らない。つるむ機会が極端に減ったため、そもそも知る術がない。
「マジかよ」
笑いながら高崎の肩を小突くも、動揺しなかったといえばウソになる。結局いくら仲が良くても、女ができたら二の次だ。どれだけ同じ時間を過ごしても結局。
人と関わるのは面倒だ。簡単にくっついたり離れたりする関係が煩わしい。愛煙のセッタはそういった意味ではいい仕事をした。大抵の人間はこのにおいを嫌う。付き合うならずっと一緒にいられるような、本物が欲しかった。
高崎と火州はそんな希少な奴らだった。あいつらは俺がどうしようとここを離れない。俺の世界は十二分に満たされているはずだった。なのに
「火州、一回の教室にいたぜ。女としゃべってた」
高崎のダミ声が頭に響く。丸出しの好奇心。心底楽しそうな奴に対して、俺は全く逆の温度でその事実を受け取った。控えめに言って極度の不安に駆られていた。
別に火州に女が切れないのは今に始まった事ではないし、今さらという話だが、
「あいつが・・・・・・自ら?」
胸騒ぎの原因は自らという点だった。来る者拒まずでも、火州から動く事はまずない。
今考えれば、俺の世界が壊れ始めたのはあの時からだったのかもしれない。
日差しが強い。屋上の俺のテリトリーは軽く肉が焼ける。注文は、そうだな、今日はレアは受け付けない。
「いいじゃん、行こうぜ鮫」
いつも通りの満面の笑みで高崎が言う。無理矢理入った狭い日差しの下、俺はタバコに火をつける。
「だからいいって」
くわえながら言ったため「いい」が「ひひ」になる。
「え、何、鮫妬いてんの?」
腹を抱えて笑いながら転がる。そうでなくても暑苦しくてでかい図体が、考えられる最大限の迷惑をかけてきやがる。その脇腹を蹴った。これは正当防衛とかいうやつだ。
気ぃ遣ってんだよタコ。
もうもうと腹ん中に立ちこめた感情が、行き場を求めてさまよう。吐き出し口が見つからず正しく循環できないそれは、いつしか害を含む。俺はせめてため息をついた。花火といったら夏の一大イベントじゃねぇか。俺と行って何になる。同情なんてごめんだった。
「あいつでかい音苦手で花火は行かねぇんだ。だから一緒に行こうぜ」
舌打ちが漏れた。
ほら見ろ。俺と、行きたいんじゃない。本命が行けねぇから仕方なく俺なんだ。
「行かねぇ。めんどい」
そう言って、日差しから足を出して横になる。無機質。アスファルトの地面は堅く、日陰だけ冷たい。容赦なく照りつける日差し。ズボンの黒が容赦なく光を吸収する。
今日は雲がない。一面、真っ青なキャンバス。
火州は、やっぱり屋上に来ない。