真琴5〈7月31日(土)①〉

文字数 932文字

 真琴五、七月三十一日(土)


  一

「真琴ちゃん、帰ろ」
 十七時時半。「お疲れー」の声が響く中で後ろからそんな声がした。
 千嘉ちゃんは頭から水をかぶったようにびしょ濡れだ。そのすべては汗のせい、もとい、朝からお昼を挟んで今の今まで続いた、スパルタ練習のせいだ。
「うん」
 きっと千嘉ちゃんも私を見て、同じようなことを思っているのだろう。束ねていても張り付く髪の毛。おでこから鼻にかけて、無限に吹き出てくる汗。特に体育館内は日差しがない代わりに空気がこもり、蒸し風呂状態だ。
「今日は高崎先輩いいの?」
「うん。今日は時間違うから」
 千嘉ちゃんは七月の半ばくらいに彼氏が出来た。それも高校に入学して以来、ずっと憧れていた先輩だ。その人は少し前まで男子バレー部の主将をしていた。
「そっかー。でも会おうと思ったらいつでも会えるしね」
「まぁ、ね」
 目が合わない。その微妙な変化に気付いて声をかける。
「どうかした?」
 苦笑い。やっぱり様子がおかしい。
「高崎先輩と何かあったの?」
「ううん、ちょっとね」
 そうして着替えてこよ、と言った。

 シャワー室なんてのは、あってないようなものだ。水しか出ないし、それ以前に一年生が使えるとしたら、それは練習終了一時間後の話だ。それなら早いところ退散した方がいい。
 私はずっしり水分を含んだ体操服と下着をビニール袋に詰め、エイトフォーを虫除けスプレーのごとく振りまき、着替えを済ませた。しかし動いていなくたって汗をかくこの時期だ。べたつきはどうしたって拭い去れない。
 それでも外に出て、制服のスカートが風を含むといくらか気分がよくなった。
「真琴ちゃん、今からちょっと時間ある?」
 同じく着替えを終えた千嘉ちゃんが言う。その視線はやっぱり落ち着かない。八月の頭。傾いた太陽が、しつこく私達を照らす。濃くなる影。
「聡さんが言ってて、本当は言おうかどうしようか迷ったんだけど」
 その後私たちは「体育館に続く渡り廊下」で腰を下ろした。話の内容はやはり高崎先輩のことだった、と思ったが違った。
 その言葉の背後に控えているモノをそうっと取り出す。
「何かその、水島君、好きな人いるらしいんだよね」


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登場人物紹介

草進真琴(そうしんまこと)

高一女子。モットーは「私はただの高校生。それ以上でもそれ以下でもない」

6月10日生まれ、A型。


作画、いく。

火州飛鳥(ひしゅうあすか)

女嫌いの高三。美形。

9月2日生まれ、B型。


作画、いく。

鈴汝雅(すずなみやび)

男嫌いの高二。美人。

3月3日生まれ、O型。


作画、いく。

水島聖(みずしまひじり)

病んだ高一。思い込みが激しい。

6月27日生まれ、A型。


作画、いく。

鮫島勤(さめじまつとむ)

高三。飛鳥の友人。

2月2日生まれ、AB型。


作画、いく。

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