雅6〈8月15日(日)③〉
文字数 1,149文字
三
たこ焼き、焼きそば、フライドポテト。飛鳥様は目的の物を買い込むと、最後に一つ、かき氷を反対の手に持って来た道を戻り始めた。防波堤の大きな段差にさしかかると、ことさらゆっくり歩を進める。その目は真剣だ。両手が塞がっているのだ。無理もないだろう。
「転んだ経験がおありですか?」
常には見られないその姿に思わず頬が緩む。あたしとは全然違う足の長さが活かされていない。困ったような笑顔。
「いや、俺なんかどうでもいいんだよ」
最後の一段を降りた時その右手に持ったかき氷がシャリ、と崩れた。底の方が溶けたのだ。
その後しばらくすると、拠点であるパラソルが見えてきた。どうやら高崎先輩が水島と草進真琴に向かって話しをしているようだ。その手前で鮫島先輩は高崎先輩のパーカーにすっぽり包まれて、気持ちよさそうに寝入っている。
「おう、さんきゅ」
高崎先輩はこっちに気付くなり、白い歯を見せて手を上げた。
「人が多くてあっち回ってきた」
飛鳥様はそう言うなり、持っていた食料をシートの上に置く。そうなのだ。本来直線で結んだ距離をたどれば今の半分の時間で済んだ。けれどもパラソルをたたむ人もいれば、これから広げようという人もいる。行きにはあったはずの見えない通路がいつの間にか断たれていたため、コの字型に回って戻ってきたのだ。あたしはその分長く一緒にいられるから構わなかったけれど、飛鳥様のデザートであるかき氷はほとんど溶けてしまっていた。
「そうか。そりゃあ大変だったな」
「別に。・・・・・・ほら」
そう言って、唯一利き手を塞いでいたかき氷を差し出す。すぐ隣で半身を向けて座っている草進真琴に。
「飲め」
「飲め、って」
大口を開けて高崎先輩が笑う。濃いピンクの液体。確かにそれは飲み物だ。
飛鳥様?
あたしの中にある、今まで音無しくしていた醜い部分が、再びぐらりと首をもたげる。制御が利かない。毒牙が、再びか弱そうな生き物に向かおうとする。
草進真琴は目を丸くすると、分かりやすく動揺した。
「あ、え、あっ・・・・・・と」
それでも結局観念したのか、「ありがとうございます」と消え入るような声でつぶやくと、それを受け取った。
あたしがさっき食べたのと同じ、いちごシロップのかき氷。あたしが食べたのはちゃんとしたかき氷で、シャリシャリとおいしくて。でも
「元かき氷」を飲んでいる草進真琴を、ともすれば呪ってしまいそうな勢いで凝視する。飲んでいる途中でむせると、飛鳥様はうれしそうにたしなめた。
あっちの方がよかった。
原型は留めてないけれど、もうぬるくはなってしまってるかもしれないけれど、それでもあたしは飛鳥様の持ってくる、あったかいかき氷の方がいい思った。