真琴1〈4月8日(木)④〉
文字数 744文字
四
翌日。オリエンテーション。それは丁度各教科ごとの先生の挨拶が一通り済んだ後の休み時間のことだった。右隣の席の子に声をかけられる。名を寺(てら)岡(おか)千(ち)嘉(か)ちゃんという。
「真琴ちゃん中学の時バレー部だったんだよね。あたしもなんだけど、高校でも続ける?」
「うん、そのつもり。見学してから決めるつもり」
「そっか。じゃあそれ、あたしも一緒に行ってもいい?」
うなずくと千嘉ちゃんは「わぁい、約束だよ」と顔の前で手を合わせた。
ベリーショート。短い前髪に勝ち気な眉。中、高校生によく見られる、ふっくらとした特徴的な肉付き。明るく感じのいい子だった。
その後、休み時間も残り五分という頃、慶子と慶子の左隣の席の子がやってきた。
「真琴、昨日の人のことミヤが知ってるって」
「ミヤ」と呼ばれたのは、背が高く、少し猫背ぎみの子だった。その後ろ、クラスメイトの田代さんもついてくる。
「火州飛鳥先輩ってうちの先輩で、あ、うちのっていうのは南中の事で、ケンカ強いって有名だったの。目立つし、試験で面接とかあったら絶対通らなかったと思うんだけど、ここ筆記だけだからね。一つでも得意科目あるといけちゃうんだよね」
はて、と思う。
純粋な疑問だけど筆記は通ったんだ。ケンカするけどそれなりの頭もあるってこと?
「そうなんだ」
でも私が知りたいのは何の関わりがあるかだけで、人違いならそれでいい。私ただの高校生。それ以上でもそれ以下でもない。
薄く開いた窓。吹き抜ける一陣の風。
色づく。
身に覚えがなくても、色づくものは勝手に色づく。
ただの高校生の日常にしては強烈な差し色。それは平和な高校生活を夢見る私にとって、例えるなら隣人の騒音のようなものだった。