雅1〈4月28日(水)③〉
文字数 890文字
三
〈あの子調子のってんじゃないの?〉
〈なんかすっごい自分の事かわいいって思ってそう〉
〈分かる分かる。それ鼻にかけてなきゃ、あんな態度とれないよね〉
女のねたみは、底が知れない。自分の事を棚に上げてでも、出る杭は打たなきゃ気が済まない。下唇を噛みしめると、声とは逆の方向に足を向けた。
すべての引き金になったのは、生徒会の同期の中辻さんの彼氏が、彼女がいるにも関わらず近寄ってきたことだった。あたし自身、元々男性が苦手だったが、中辻さんには関係のないことだった。
女の情報網をなめちゃいけない。どこがどうつながってるか把握しようなんて骨の無駄。そうしてすぐ一人になった。生徒会だけじゃなくて、クラスでも部活でも。
あ、違う。一人だけいる。
友人。部活の練習試合の時知り合った、他校の子。
一回生の冬、雪がちらつく中での練習試合。他校の生徒である彼女とはひょんなことがきっかけで、話をするようになる。名をマリエと言った。漢字をどう当てるかは知らない。
事情を知らないマリエだけは目の前にいるあたしだけを見てくれた。彼女自身、プレイヤーとして特に目立つ存在ではなかったが、一球一球にかける思いが強かったのを覚えている。
高校のテニスはダブルスとシングルスがあり、あたしはシングルスで試合に出ていた。
ただ、シングルスとは言っても、必ずしも一対一の戦いではない。同じ学校の人間が応援に加われば十対一にだってなりうる。そうして純粋な孤独に陥れられることも、少なくなかった。
でもそんな時、マリエが来てくれた。他校の人間の試合であるにも関わらず、わざわざコートにやってきて「頑張れ」と言ってくれた。大きな声で支えてくれた。その時の喜びは一生忘れない。初めて味方が出来た瞬間。十対二だって無敵だった。
あたしの友人は、マリエだけだった。
生徒会長は立候補したものではない。多くの人間によってなすりつけられたものだ。でも。
あたしは、逃げない。完璧にその役割をこなした時、あの子達の敗北が確定する。それまでの辛抱。
あたしは絶対に、負けない。