飛鳥1〈4月15日(木)②〉
文字数 808文字
二
「なぁ、これからどうする?」
その視線を頬の辺りに感じる。
鮫島勤はセブンスターを取り出すとくわえた。なれた手つきで火をつける。夕日に照らされてなお、その肌は青白い。パッと見学ランが緩そうに見えるのは、身体の線の細さから。
「ああ」
言いながら一呼吸とばす。煙のにおいが鼻を突いた。
元々カギがかかっているはずの屋上、北の棟の西側半分。ここの鍵は本物以外スペア三つ、俺と鮫島と高崎が持っている。
「あいつが来てから考えればいい」
「高崎、今日サボりらしいよ」
「そうなのか」
高崎聡は俺と中学が一緒で、誰よりでかい図体とケタ外れの腕力をもつ。それにしても高崎がサボりなんてめずらしい。
鮫島はタバコを唇から離した。その口の右端がつり上がる。
「そ。一体何の用だろうね」
そこには「俺達に内緒で」というニュアンスが含まれていた。
俺と高崎は中学が同じで、高校一年も終わる年明けに鮫島が加わった。ここで三人集まるようになって約一年。初めて会った時は坊ちゃん刈りだった鮫島の髪も肩まで伸びた。長い前髪は両の目だけうまくよけている。
「あぁ」
また一週間前に見た顔が浮かんだ、そのわざとらしくおびえた表情。何はなくても勝手に出てくる。長い間待ったせいもあって、そのたびにイライラが増した。思わず舌打ちが漏れる。その時だった。
「飛鳥様、雅です。ここを開けてください」
ドアの向こうから女の声がした。その影がすりガラスに映っている。
鮫島が、今度は声に出して笑った。
「お嬢様がお呼びです、飛鳥様」
切れ長の目がさらに細くなる。元からゆがんだ笑い方をする奴だ。イチイチ怒る気にもならない。
「うるせぇ」
鮫島は肩をすくめると、落としたタバコを踏み潰した。その後「屋外に続くドアがついてるコンクリート」の上に手すりを蹴って飛び乗る。
ため息。俺はドアに近づくと、その鍵を開けた。