飛鳥5〈8月1日(日)②〉
文字数 1,397文字
二
「お前さー、いい加減にしろよ」
喫煙席であるのをいいことに、鮫島はもう何本目かのタバコに火をつける。
「妹が放してくれないからまた今度にして、なんて言ったら俺マジキレてたよ?」
そうしてそんないつでもヒマじゃないんだからと言うと、プカプカと煙を吐く。
「・・・・・・おう、悪い」
駅前のファミレス。俺はひんやりとしたテーブルに突っ伏す。鮫島は「別にいいけどさー」と言うと、灰皿にタバコを押し付けた。
「高崎、後十分で着くって」
鮫島が携帯を見ながら言う。
「うーん・・・・・・」
俺は再び気のない返事をして、ついさっきと同じように叱られる。
「おう、悪い遅くなって」
ようやく高崎が現れる。目を突くような白のタンクトップにゆるめのパンツ。
「遅ぇよ」
鮫島が新鮮な煙を吹きかける。
「どうせ彼女とイチャイチャしてたんだろ?」
そうして灰皿に押し付けながら言う。
「高崎、お前、女出来たのか?」
聞くと、照れくさそうに頭をかいた。それだけでも驚いたが、鮫島が付け足した「半月も前の話だぜ」にさらに驚く。
「相手は、って聞かねぇの?」
「一回のバレー部の子。すごいいい子」
「まだ聞いてねぇよ。のろけんな」
その様子は今にもタバコを押し付けんばかりだ。
「バレー部・・・・・・」
俺は真琴が確かバレー部だったな、と思い出す。
「そうそう。寺岡っていうんだけど」
俺は目をむいた。
〈寺岡です〉
真琴の教室に行ったあの日、話しかけた相手の名前も確か寺岡・・・・・・。
「トイレ」
自由か。だが丁度いいタイミングで鮫島が席を立った。通路側の高崎をどけて、店の奥に向かう。俺はここぞとばかりに顔を近づけた。
「その子、真・・・・・・草進真琴と知り合いか?」
「ん? ああ、友達だと」
でかした。
「頼む、その子から草進真琴の連絡先聞いて、俺に教えてくれないか?」
高崎は目を丸くした。その眉がひそめられる。
「・・・・・・分かった」
鮫島が戻ってくる。高崎は話を戻した。
「で、あの草進って子は一体何の関係があるんだ?」
「何、まだ言ってなかったの? 火州」
「あぁ」
俺は鮫島の時と同じように説明する。途中横やりが入ったが、大方流した。
「そうだったのか」
「ったく火州も、あの草進って子に構いすぎなんだよ」
その手元に目をやって、ようやく鮫島君の不機嫌の原因に気づく。コイツ、ニコチン切らしやがった。こうなるとムダにからんで駄々をこね始めるのはいつものことだった。
「いいじゃねぇか、もうほっとけば。別に向こうも覚えてないわけだし」
高崎と目配せする。とりあえず今の状態の鮫島君が一緒では話が進まないので、タバコを買いに行かせる。
「待っとくから。話進めないから」
すると鮫島はしぶしぶ出て行った。その姿が見えなくなった後、二人してため息をつく。
「・・・・・・めんどくせぇ」
「アイツこないだまとめて買ってたのにな。補充すんの忘れたのかな」
「カートン?」
「ああ」
高崎がピースしている。ツーカートン。もう一度ため息をつく。高校生の金銭事情をまるでムシしてやがる。鮫島の親父はどえらい医者で、あいつはその一人息子だ。あの上から目線はそこから来ているのだろう。
セッタの空箱。その角は買った時のままだ。変な所で育ちの良さを感じる。