高崎聡〈8月15日(日)②〉

文字数 1,356文字



  二

 海に行くと聞いたのはその翌日のことだった。千嘉も行きたいとせがんだが、それはそれで嫌味だろうと、また別の日に連れて行くと約束して今回は留守番にしてもらった。
「なぁ高崎、俺何かおかしいんだ」
 火州からそう打ち明けられたのは他でもない、海に行った日の夜の事だった。俺はそれを厚みのある布団の上で聞いた。
「あぁ、おかしいな」
「真琴ちゃん」のメガネ消失事件から一時間。布団の上に寝転がっているという事実。本来ならあのまま解散のはずが、そうならなかったのは何を隠そう、この男が駄々をこねたためだ。ちなみに大抵駄々をこねるのは鮫の役割だ。火州は何も言わない。ただ、布団の上に座りこんだまま一点を見つめている。俺はそのやけに頼りなく見える背中を、頭だけ起こしてじっと見た。
 ここは海岸沿いにある年季の入った民宿の一室だ。いくら民宿とはいえ、学生の身である俺たちが、満足に手持ちもないのに何故ここにいられるのかというと、あの鮫おぼっちゃんが「どうにか」してくれたためだ。
「俺マジそういうの嫌いだから。マジで今回だけだから」
 鮫島は後ろにいる三人に聞こえないようにそう言うと「便所」と言って一人集団を離れた。火州も少し遅れてその後に続く。そうしてどうにかなった訳だが、特に女の子二人は「後で払うんで」としきりにそわそわしていたため、それをなだめるのが俺の役割だった。
「そもそも何で泊まろうと思ったわけ?」
「ああ、いや」
 それだけ言うと、再び黙り込んでしまう。俺はため息をついた。
 部屋は二人部屋を三つとったため、強制的に男四人は二グループに分かれることになった。火州と水島は雅ちゃんのこともあるし気まずいだろ? そんでもって火州と鮫島も今なんとなく気まずいだろ? こっちもまた、雅ちゃんが関係しているようだが。ってことはこの組み合わせ以外考えられない訳で。見たところあの二人は仲良さそうだから、まぁ問題ないだろう。ただ、壁が薄くて、隣の部屋の会話も下手すると丸聞こえだから、分けたところで大した意味はないかもしれんが。ちなみに女の子二人はここから渡り廊下を通った先の角部屋にいる。
「高崎、俺おかしいんだ」
 そうだなと返されたにも関わらず繰り返している段階でさらにおかしい。おかしい、オン、おかしい。生返事をして続く言葉を待つ。
 肌表面がヒリつく。今日焼けたところが真っ赤だ。俺はさっき濡らしておいたタオルをバッグから取り出すと、肩に乗せた。おぉ、痛ぇ。
「俺、あいつ・・・・・・恨んでんだよな」
「だよなって、お前のことだろ?」
 軽くいなすが、あながち冗談を言っているわけでもなさそうだ。
「・・・・・・だよな」
 そうつぶやくと、火州も仰向けに寝転んだ。タオルを逆の肩に乗せる。おぉ、痛ぇ。
「なぁ、高崎」
「ん?」
「俺・・・・・・あいつ、嫌いなんだよな?」
 俺は顔にタオルを乗せると「そうじゃねぇの?」と答えた。蛍光灯の光が遮られる。疲れはピークに達していた。再び黙り込む火州。時刻は十九時。丁度腹が減り始める頃合いだ。
「なぁ、俺からも聞いていいか?」
「ああ」
 布団のすれる音がした。起き上がったのだろう。大きく息を吸った。
「お前、何であん時かき氷買ってきた?」


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登場人物紹介

草進真琴(そうしんまこと)

高一女子。モットーは「私はただの高校生。それ以上でもそれ以下でもない」

6月10日生まれ、A型。


作画、いく。

火州飛鳥(ひしゅうあすか)

女嫌いの高三。美形。

9月2日生まれ、B型。


作画、いく。

鈴汝雅(すずなみやび)

男嫌いの高二。美人。

3月3日生まれ、O型。


作画、いく。

水島聖(みずしまひじり)

病んだ高一。思い込みが激しい。

6月27日生まれ、A型。


作画、いく。

鮫島勤(さめじまつとむ)

高三。飛鳥の友人。

2月2日生まれ、AB型。


作画、いく。

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