聖1〈5月11日(火)①〉

文字数 863文字



 聖一、五月十一日(火)


  一

 最初に目を奪われたのは、その立ち姿だった。
まっすぐなまなざし。肩から、ふくらはぎから始まる曲線が収束する腰。
 振り返る。その頬が緩んだ。

「スズナ」
 伸ばした手。触れるはずの肌は、感触として誠を伝えることはない。
 その身体を抱きしめる。悲しいかな、あくまで記憶を元に再現されたものを。ここではどんな事でも願えば叶う。
「スズナ」
 風がなびいた。それが合図であるかのように腕を抜け出す。その寂しげな笑顔。焦るほどに肝心の身体は動かない。
「待って」
 白い手首、は遠い。音もなく離れて消える。あとはいつもと同じ、僕一人取り残される。当然だ。元々僕と君しか存在していなかったんだから。
 伸ばした手を下ろしてうつむく。一人でいってしまうなんて薄情じゃないか。いつだって一緒、そう言ったのは君の方だったはずだ。スズナ、ああ、
 寂しい。
 目をつむると、その後ろ姿が浮かんだ。りりしくて、危うい。その綺麗な立ち姿が何より好きだった。振り返って、僕だと分かった時に緩む頬。
 笑った。本当に辛い時は涙なんて出て来ない。何も考えられない。何も考えたくない。全部狂ってる。この世界は彼女を排除した。彼女が彼岸に渡る事を許したのだ。
 宇宙も、太陽系第三惑星も、この国も、そして僕も、全部。
 全部狂ってる。

 カーテンの上下からはみ出した光で意識を取り戻す。いくら遮光にした所で東側のカーテンに強烈な朝日は荷が重い。急浮上すると同時に、全身に現実が戻ってくる。顔の上に腕をのせるが、浮上したが最後、再び潜る事は不可能だ。それでも何とかどうにかならないものかと、寝返りを打って枕に顔をこすりつけたその時、携帯のアラームが小爆発並みの音を立てた。全くの不意打ちに跳ね上がる。
 命令された事だけに従う無機質。一瞬本気で壁に叩きつけてやろうかと思った。それがただの目覚まし時計だったら、たぶん本当にやってた。
 皐月中旬。緑の盛り。外の明るさは、僕の気持ちを置き去りにする。


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登場人物紹介

草進真琴(そうしんまこと)

高一女子。モットーは「私はただの高校生。それ以上でもそれ以下でもない」

6月10日生まれ、A型。


作画、いく。

火州飛鳥(ひしゅうあすか)

女嫌いの高三。美形。

9月2日生まれ、B型。


作画、いく。

鈴汝雅(すずなみやび)

男嫌いの高二。美人。

3月3日生まれ、O型。


作画、いく。

水島聖(みずしまひじり)

病んだ高一。思い込みが激しい。

6月27日生まれ、A型。


作画、いく。

鮫島勤(さめじまつとむ)

高三。飛鳥の友人。

2月2日生まれ、AB型。


作画、いく。

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