雅5〈7月31日(土)④〉
文字数 678文字
四
草進真琴に会ったのは、その帰りのことだ。
「戸締まりをしていきます。先に出て下さい」
そう言う水島を残して、一足先に生徒会室を後にする。沈んだ気持ちで歩いていくと、校門の近くで見覚えのある姿を見つけた。その姿は今のあたしを映したようだと錯覚する。声をかけずにはいられなかった。
「あんた、何してんの?」
猫背。小さな背中にそう尋ねる。
「何ぼんやりして。陰気臭いわね」
そうして自分自身をも叱咤する。草進真琴はうつむいたままだ。そのまま帰ってしまうことは出来たが、何となく放っておけなくてその場に残る。
「先輩に・・・・・・なりたいです」
だから、真琴の一言はあたしの自尊心をくすぐったが、一方でひどく無神経とも感じた。その小さな身体から声が放たれる。
「・・・・・・一つ、お伺いしてもいいですか?」
「何?」
「先輩は・・・・・・その、水島君とどういったつながりが」
「あぁ、生徒会よ。今年からあいつが入ってきたの」
あたしは全部を聞かず応える。真琴は「そうですか」と蚊の鳴くような声でつぶやくと、再び押し黙った。あたしはそんな真琴の辛さを吸収して元気になる。この時、水島が好きと知った時、あたしは心から安心したのだ。この子が好きなのは水島。たったそれだけの事も、力に変わる。
「あなた、あたしと手を組まない?」
ふいに上がった気分に乗じて、そう口にする。この子となら大丈夫だと思った。マリエがいなくなった今、もしかしたら無意識の内に人との繋がりを求めていたのかもしれない。真琴を、自分の中に取り込むような錯覚を覚えた。