３４　喚問

　フロアは貸し切りだった。私服の戦闘員六名に囲まれて、親睦会だか歓迎会をしたあの部屋をめざす。女戦闘員が無意識に舌を打って俺に土下座しかけるし。

　正面奥に長方形テーブルが横に並べてある。見たことがない男が六人。女が三人。いずれもこちらに顔を向けて座っている。テーブルには水だけ。俺たちの椅子はないようだ。オーディションって感じかな。

「顔が丸出しだけど擬態？」小声で柚香に聞くけど。
「しっ」顔を青ざめさせる。

「さっそく始めるが、まずは擬態(・・)の使い手だった春日の件からにしよう」
　中央の五十歳ぐらいの男が言う。

「当時叛逆者扱いであった陸奥柚香を庇うため、相生智太が竹生夢月を呼んだ。そのために春日の精神エナジーは消滅した。まちがいないな」
　隣の五十ぐらいの女が言う。

「はい。その通りです。全部俺が悪いです」
　言い訳など面倒くさい。

「……陸奥は？」センターの親父が言う。

「私が戦いから逃げたことが発端だと分かっています。でも、それが悪いことだと今は思いません。強い敵からは逃げる。その選択肢がないと、これからも仲間は次々と倒れていきます」
　本部の面々から目を逸らさずに言う。

「非を認めるのだな」
　四十ぐらいの几帳面そうな眼鏡の男が言う。

　俺は「はい」と答える。
　柚香も俺をちらりと見てうなずく。俺の手を握る。

「手を離せ。お前たちは恋愛感情を戦いの場に持ち込んでいる。その結果があれだ。昔はそんな奴はいなかった」
　四十ぐらいの痩せた男が言う。

　柚香が言われたとおりにしようとするので、俺はさらにしっかり握る。
　沈黙が流れる。……また龍になれるかな。なんて思っちゃったりする。

「どんどん進めましょう。えーと。モネログリーンの捜索。夏目藍菜は継続中だと言うが、エースである陸奥の口から聞きたい」
　三十半ばの女性が言う。

「こんな状況だからまったく進行していません。正直に言うと、その任務に加わったこともありません」

　柚香は紗助君が広尾にいることを知らない。

「あんな奴はもはやどうでもいい。南極トビーはどこにいる。……ハウンドピンクとそれのお付きが本宮を裏切ったと言う噂がある。相生は知っているか？」
　五十近いハゲが言う。

「何も知りません」
「お前の自宅は練馬区だよな。狭い家だとしても、お前はまた庭で寝ている。南極トビーらしき女を、石神井公園駅前のパチンコ店で見かけたと言う噂もあるが」

　岩飛め……。どちらにしろ、こいつらの目に入るのは想定している。

「遠い親戚の女の子たちがシェアハウスしているので、俺は仕方なく庭キャンプです。あなたたちが調べてもルーツが見つけられないほど、遠い遠い親戚の子たちです。
彼女たちは一般人(・・・)です。誰かと間違えて拉致などしないでください。
竹生夢月(・・・・)は彼女たちを気に入っています。彼女たちを傷つける者は誰であろうと赦さない。そう言っています」

　後半は大嘘だけど、それぐらい言える。

「……ハウンドピンクは戦局を一変できる存在。焼石の裏切りが帳消しになる、とてつもない功績なのにね。――もし彼女を見かけたら伝えて。あなたには力になって欲しいと」
　三十半ばの女がふっと笑う。
「議長。竹生の話がでたところで、本日の主題に入りましょう」

「出雲(いずも)の言うとおりだな」
　中央の男がため息をつく。
「西新宿の戦いの件。さすがにあの件をお前たちの責任にはできない。罪が重すぎる」

「前例がない。奴らでさえもしでかさない」
　アグルさんたちと同年代の男が、我慢できぬように立ちあがる。
「あれは俺たちの責任だ。あの娘を甘やかしたからだ。いくら都庁に布理冥尊の隠し施設があり、たまたまそれを破壊できたとしても、一般人の負傷者はなかったとしても、看破できない！」

　一番若そうなこの人は興奮するけど、そうだったのか。
　都庁を襲った紅い光は、某国の攻撃ではと大騒ぎになったけど、翌日に人気タレントや芸人複数参加の薬物パーティー（一年前のだ）が発覚して逮捕者が多数出て、テレビはそれ一辺倒になった。
　ＳＮＳはインフルエンサーの一部が格好よくて、都庁の件は偽造ねつ造すなわち某野党の陰謀との風潮に替わっていった。高層ビル群における特異稀すぎる異常気象な現象で収まりそうだけど。

「霧島(きりしま)。冷静になれないと現役最後の二の舞になるぞ。――そんな意見もあるが、彼女は非常に反省している。なので最後のお咎めなしとする」
　センター隣のでぶが言う。
「次はない。その時は我々全員が力を合わせて彼女を倒す。トリオスもネーチャーも一緒にだ。
……彼女と仲が良い君たちも、その覚悟をしていてくれ。これは深川蘭も承知している。もちろん、何も起きないのを心の底から祈っている」



　なんだか柚香が叫んでいたけど、その後も話は続いていたけど、俺は夢月だけを思う。反省した彼女は何もやらかさない。そんな予感は全くしない。その時に……俺はどうすべきだろう。


「以上だ。相生も良いな？」
「もう一度――」
「彼も承知しています。私がしっかり聞いたので問題ありません」

　柚香が頭を下げる。俺も下げる。

「……春日もそれで良いな」
　中央の男が言う。

「もちろんです。一度死んだ身が、でかい口を叩けませんからね。ただ」

　発言しなかった一番端の見知らぬ女が笑う。

「こいつらのペナルティを忘れていませんか。まず私はモスガールジャー時代を踏襲して、相生から性フェロモンだかをはく奪することを提案します。
三千万円分。
こいつらの恋愛ごっこも終わりますよ。戦いに専念してくれる」

　俺と柚香を見つめながら笑う。




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