25 ニューモスデー
文字数 3,199文字
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正義の象徴であるレッドがあんな報酬を授かるなんてね。
真っ先に私の胸を見てそれから顔を見て、正義の女性は容姿で選ばれるではなかったのか、みたいな顔をした気もするレッドにはお似合いなんて思わないから、櫛引博士に対応依頼してある。
研究が進めば十年後ぐらいには報酬が変わるかもしれないから気をやまないでね。
でも、あの
たまたま聞いた話によると、あのくそは一般人のときから視力が9.5あって、対岸で子供たちが亀を苛めているのをいましめるために、制服の下に着ていたスク水で、台風で増水した荒川に飛びこんで、くそでもさすがに流されて、流木にしがみつき海ほたるで保護されたらしい。
そんなくそ化け物がスカシバレッドを狙っていると、本部に誇張して報告してあるから心配しないでね。
某二十五歳にも、くそ月レッドが我々のレッドの布団にもぐりこんだら、お前のパソコンにモスプレイから超精細照射をかけて、旅日記データをすき焼きにしてやるとはさすがに言えない。殺される。
それはそうと、私はイラストとか得意なんだ。いまは主に小説で、なんちゃってR15のBLを書いていて、正直大人気。出版の打診が来たけど表に出たくないから断った。それにこの前の戦いでインスピレーション湧いたから、こっちはもうエタったし。
今度の傭兵たちの愛と友情はうずくよ。表現がギリギリを突くから、男性層こそ読んでいるみたい。智太君も真面目に読んで、しっかりと足跡を残してね。
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後半はなにを言っているのかよく分からなかったが、前半以上にすごいことなのだろう……。彼女に侍るボディガードの淀んだ目つきが気色悪い。こいつの目を見たら思いだした。
「そういえば、トンボの化け物が人間を食べたとか言ったけど」
隣からぶっと吐きだす音がした。
「食事中に切りだす話ではないな」
清見さんに
「事実らしい」
碧菜が下のフロアから取り寄せた唐揚げにフォークをぶっ刺す。
「本部が真相を探っているが、生身の人を食べるなんて、奴らはもはや人間ではない」
もぐもぐしながら、みんなを見渡す。
「……菜っぱ、大事な話があると言ってなかったか?」
「えっ、……うん。実は」
碧菜がうつむく。
「じ、実は……さ……チ、チームのスタイルを変えようかな?」
「ほう。ようやくか」と清見さんが乗りだす。
「もしかして男?」隼斗が目を輝かせる。
「そ、そう。この前の戦いでインスピレーション湧いたから、傭兵にチェンジしようかな。でも奴らと被るから中世系」
「そんなの駄目です!」
陸さんが吠える。
「三ツ星レストランで興奮してすみません。でも、私は男になりたくありません」
「陸さんは女にしてもらえばいいだろ。僧侶とか踊り子とか」
「僕はなんになろうかな? 智太さんは勇者で決まりだね!」
それって傭兵なのか? 清見さんと隼斗はハイタッチを交わすけど……。
「今度は私も人間にしろよ」
「茜音っちはオウムのまま。コザクラインコならいいよ」
「絶対に駄目だ!」
俺は立ち上がってしまう。
「これからも今のモスガールジャーで行く!」
これからもスカシバレッドと戦い続ける。
部屋に沈黙が流れる。
「エースの意見こそを尊重しよう。隼斗に夏目。残念だったな」
清見さんがワインに口をつける。
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宴もたけなわで、記念撮影をすることになった。藍菜が中心で両隣に俺と隼斗。スカシバレッドの写真を茜音に撮ってもらうと約束していた。でも、このメンバーの写真こそが尊い。
ボディガードがカメラを持つ。陰気な目で見られても笑顔を作りづらい。
「あの人は?」藍菜に聞く。
「運転手兼諸々の
それをボディガードにするのはいかがかと思う。
「“いちろうた”なんてさわやかな名前だし。特性が“山犬”と“恨”なんて強そうだし。そうですよね、落窪さん」
「あなた様のおっしゃる通りですよ、ぐひひ。では撮らさせていただきますよ、ぐひひひひ」
落窪さんが落ちくぼんだ目でカメラを構える。このままビームが発射されて全滅するかもと不安になったがフラッシュだけだった。
仕上がりをみんなで確認しようとしたところで、天井に六人ぐらい飲み込みそうな巨大な白い渦が巻きはじめる。
「あっ、そうだった。本部から指示が来ていた。言うのを忘れた」
「この馬鹿が……」
「隼斗は知らぬ間に部屋で寝ているかもと、お母さんには言ってあるよな」
「退院した日に言った。じゃあ落窪さん、あとはよろしく」
光に包まれて意識が遠ざかる――。
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「起きてください」とイエローにやさしく頬を叩かれる。
「お前はいい加減覚えろ。呼ばれたら腹に力を入れろ」
ブルーに叱られる。
ピンクが操縦席から笑う。
「特例で自動運転にしたまえ。ブリーフィングを済まそう」
肩にアメシロを乗せた与那国司令官がやってくる。
「今夜はカチコミだ。暴力団組織に偽装した布理冥尊の一団を壊滅させる。準構成員二名が上級戦闘員。構成員二名がエリート。若頭が幹部補で組長が地方幹部クラス。ちんけな規模のやくざだけあって、合計レベルは150ぐらい。何事もなければ楽勝だな」
「なんでモスプレイに集合するの? 僕とシルクはわざわざ降りるなんて面倒くさいよ」
もともとエナジーが司令官と同調するアメシロと違い、俺たちは自力で乗り降りしないとならない。
「もうひとつ思いだしたからだ。ずいぶん前にアメシロから頼まれたことをな」
司令官の手にカメラが現れる。
「撮影してから出撃してもらおう」
スカシバレッドがセンター。両隣にはダブルピースするスパローピンクと微笑むシルクイエロー。後列に腕を組むエリーナブルーと顎に手を置く与那国司令官。
セルフタイマーのボタンをくちばしで押したアメシロが、司令官の肩に戻る。
スカシバレッドだけのも撮ってもらった。ポーズを変えて三枚。顔だけのアップも。早くしろとブルーに怒られる。
データは後日手渡ししてくれるらしい。ネットには流さないようにとのこと。命は大事に。
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「ひとつだけ問題がある。おそらく戦闘員は変身していない。奴らはエナジーの鎧、いわゆる精霊の盾をまとっていない」
ブルーが、草加の大学のグラウンドに降りたった仲間たちに言う。
「僕たちは正義の味方。生身の人を傷つけない」
「変身するのを待っていたら、幹部まで姿を変えます……面倒くさいですね」
「どうせならあれをしましょう。だって……私はまだしたことがない!」
あの子ならば懸命な振りをしながら笑うのも、今夜ぐらいはありだろう。
頭の中で単体敵のリスクだかの計算を高速で済ましたっぽいブルーが、にやりと笑う。
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雑居ビルの二階は深夜でも明かりがついていた。
女たちは防弾ガラスを割り突入する。悪そうな人間どもがぎょっとする。
女たちが整列する。電卓を叩いていた男が黒いマントで体を覆い、異形へと化していく。
奥で札束を
「雑魚どもめ。あきらめろ」レベル36のエリーナブルーが叫ぶ。
「我々は夜に舞う」レベル35のスパローピンクが続く。
「磨きあがった乙女たち」レベル34のシルクイエローも。
「生まれ変わった戦士たち」
レベル106のスカシバレッドが一歩前にでる。その両手に、対のスピネルソードが現れる。
戦闘員服に着替えた子分たちとピチピチ跳ねる巨大ミジンコを制して、ハゲが両手をあげる。
もうちょっと待て。
「「「「かわいこ戦隊モスガールジャーだ!」」」」
四人の声が重なる。
第一部完