25 ニューモスデー

文字数 3,199文字

 みんなは楽しそうに談笑している。パテーションで隔離させて加わりづらい。だから、正面の碧菜の聞き役にもっぱらなってしまう。

 ***

正義の象徴であるレッドがあんな報酬を授かるなんてね。
真っ先に私の胸を見てそれから顔を見て、正義の女性は容姿で選ばれるではなかったのか、みたいな顔をした気もするレッドにはお似合いなんて思わないから、櫛引博士に対応依頼してある。
研究が進めば十年後ぐらいには報酬が変わるかもしれないから気をやまないでね。

でも、あのくそ(・・)JKに惚れられるなんて私の五十倍不運だね。
たまたま聞いた話によると、あのくそは一般人のときから視力が9.5あって、対岸で子供たちが亀を苛めているのをいましめるために、制服の下に着ていたスク水で、台風で増水した荒川に飛びこんで、くそでもさすがに流されて、流木にしがみつき海ほたるで保護されたらしい。

そんなくそ化け物がスカシバレッドを狙っていると、本部に誇張して報告してあるから心配しないでね。
某二十五歳にも、くそ月レッドが我々のレッドの布団にもぐりこんだら、お前のパソコンにモスプレイから超精細照射をかけて、旅日記データをすき焼きにしてやるとはさすがに言えない。殺される。

それはそうと、私はイラストとか得意なんだ。いまは主に小説で、なんちゃってR15のBLを書いていて、正直大人気。出版の打診が来たけど表に出たくないから断った。それにこの前の戦いでインスピレーション湧いたから、こっちはもうエタったし。
今度の傭兵たちの愛と友情はうずくよ。表現がギリギリを突くから、男性層こそ読んでいるみたい。智太君も真面目に読んで、しっかりと足跡を残してね。

 ***

 後半はなにを言っているのかよく分からなかったが、前半以上にすごいことなのだろう……。彼女に侍るボディガードの淀んだ目つきが気色悪い。こいつの目を見たら思いだした。

「そういえば、トンボの化け物が人間を食べたとか言ったけど」

 隣からぶっと吐きだす音がした。

「食事中に切りだす話ではないな」
 清見さんに(たしな)められる。

「事実らしい」
 碧菜が下のフロアから取り寄せた唐揚げにフォークをぶっ刺す。
「本部が真相を探っているが、生身の人を食べるなんて、奴らはもはや人間ではない」
 もぐもぐしながら、みんなを見渡す。

「……菜っぱ、大事な話があると言ってなかったか?」

「えっ、……うん。実は」
 碧菜がうつむく。
「じ、実は……さ……チ、チームのスタイルを変えようかな?」

「ほう。ようやくか」と清見さんが乗りだす。
「もしかして男?」隼斗が目を輝かせる。

「そ、そう。この前の戦いでインスピレーション湧いたから、傭兵にチェンジしようかな。でも奴らと被るから中世系」

「そんなの駄目です!」
 陸さんが吠える。
「三ツ星レストランで興奮してすみません。でも、私は男になりたくありません」

「陸さんは女にしてもらえばいいだろ。僧侶とか踊り子とか」
「僕はなんになろうかな? 智太さんは勇者で決まりだね!」

 それって傭兵なのか? 清見さんと隼斗はハイタッチを交わすけど……。

「今度は私も人間にしろよ」
「茜音っちはオウムのまま。コザクラインコならいいよ」

「絶対に駄目だ!」
 俺は立ち上がってしまう。
「これからも今のモスガールジャーで行く!」

 これからもスカシバレッドと戦い続ける。
 部屋に沈黙が流れる。

「エースの意見こそを尊重しよう。隼斗に夏目。残念だったな」
 清見さんがワインに口をつける。

 ***

 宴もたけなわで、記念撮影をすることになった。藍菜が中心で両隣に俺と隼斗。スカシバレッドの写真を茜音に撮ってもらうと約束していた。でも、このメンバーの写真こそが尊い。
 ボディガードがカメラを持つ。陰気な目で見られても笑顔を作りづらい。

「あの人は?」藍菜に聞く。

「運転手兼諸々の落窪一狼太(おちくぼいちろうた)さん。もと布理冥尊の大幹部。雪月花に降伏して改心したから本部に無理言って私が預かっているの。善の心はまだまだ完璧ではないみたい」

 それをボディガードにするのはいかがかと思う。

「“いちろうた”なんてさわやかな名前だし。特性が“山犬”と“恨”なんて強そうだし。そうですよね、落窪さん」

「あなた様のおっしゃる通りですよ、ぐひひ。では撮らさせていただきますよ、ぐひひひひ」

 落窪さんが落ちくぼんだ目でカメラを構える。このままビームが発射されて全滅するかもと不安になったがフラッシュだけだった。


 仕上がりをみんなで確認しようとしたところで、天井に六人ぐらい飲み込みそうな巨大な白い渦が巻きはじめる。

「あっ、そうだった。本部から指示が来ていた。言うのを忘れた」
「この馬鹿が……」
「隼斗は知らぬ間に部屋で寝ているかもと、お母さんには言ってあるよな」
「退院した日に言った。じゃあ落窪さん、あとはよろしく」

 光に包まれて意識が遠ざかる――。


 ****


「起きてください」とイエローにやさしく頬を叩かれる。

「お前はいい加減覚えろ。呼ばれたら腹に力を入れろ」
 ブルーに叱られる。
 ピンクが操縦席から笑う。

「特例で自動運転にしたまえ。ブリーフィングを済まそう」
 肩にアメシロを乗せた与那国司令官がやってくる。
「今夜はカチコミだ。暴力団組織に偽装した布理冥尊の一団を壊滅させる。準構成員二名が上級戦闘員。構成員二名がエリート。若頭が幹部補で組長が地方幹部クラス。ちんけな規模のやくざだけあって、合計レベルは150ぐらい。何事もなければ楽勝だな」

「なんでモスプレイに集合するの? 僕とシルクはわざわざ降りるなんて面倒くさいよ」

 もともとエナジーが司令官と同調するアメシロと違い、俺たちは自力で乗り降りしないとならない。

「もうひとつ思いだしたからだ。ずいぶん前にアメシロから頼まれたことをな」
 司令官の手にカメラが現れる。
「撮影してから出撃してもらおう」


 スカシバレッドがセンター。両隣にはダブルピースするスパローピンクと微笑むシルクイエロー。後列に腕を組むエリーナブルーと顎に手を置く与那国司令官。
 セルフタイマーのボタンをくちばしで押したアメシロが、司令官の肩に戻る。
 スカシバレッドだけのも撮ってもらった。ポーズを変えて三枚。顔だけのアップも。早くしろとブルーに怒られる。

 データは後日手渡ししてくれるらしい。ネットには流さないようにとのこと。命は大事に。

 ***

「ひとつだけ問題がある。おそらく戦闘員は変身していない。奴らはエナジーの鎧、いわゆる精霊の盾をまとっていない」
 ブルーが、草加の大学のグラウンドに降りたった仲間たちに言う。

「僕たちは正義の味方。生身の人を傷つけない」
「変身するのを待っていたら、幹部まで姿を変えます……面倒くさいですね」

「どうせならあれをしましょう。だって……私はまだしたことがない!」

 あの子ならば懸命な振りをしながら笑うのも、今夜ぐらいはありだろう。
 頭の中で単体敵のリスクだかの計算を高速で済ましたっぽいブルーが、にやりと笑う。

 ***

 雑居ビルの二階は深夜でも明かりがついていた。
 女たちは防弾ガラスを割り突入する。悪そうな人間どもがぎょっとする。
 女たちが整列する。電卓を叩いていた男が黒いマントで体を覆い、異形へと化していく。
 奥で札束を団扇(うちわ)にしていたハゲが、俺に気づき煙草を口から落とす。

「雑魚どもめ。あきらめろ」レベル36のエリーナブルーが叫ぶ。
「我々は夜に舞う」レベル35のスパローピンクが続く。
「磨きあがった乙女たち」レベル34のシルクイエローも。

「生まれ変わった戦士たち」
 レベル106のスカシバレッドが一歩前にでる。その両手に、対のスピネルソードが現れる。

 戦闘員服に着替えた子分たちとピチピチ跳ねる巨大ミジンコを制して、ハゲが両手をあげる。
 もうちょっと待て。

「「「「かわいこ戦隊モスガールジャーだ!」」」」
 四人の声が重なる。



 第一部完
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登場人物紹介

相生智太(あいおいともた)

20歳

大学二年生

龍、陰

スカシバレッド

スカシバレッド

モスガールジャーのエース

清見涼(きよみりょう)

22歳

大学四年生

鶚、村雨

エリーナブルー

エリーナブルー

モスガールジャーの実質リーダー

睦沢陸(むつざわりく)

23歳

フリーター

猪、貫、西瓜

シルクイエロー

睦沢陸

たっぷり女性ホルモンを授かったバージョン




シルクイエロー

モスガールジャーの陸戦巨乳隊員

壬生隼斗(みぶはやと)

14歳

中学二年生

巨樹

スパローピンク

壬生隼斗

すっかり健康になったバージョン

スパローピンク

モスガールジャーのちびっこ隊員

芹澤陽南(せりざわひなた)

17歳

流星、向日葵

キラメキグリーン

キラメキグリーン

モスガールジャーのニューグリーン

夏目藍菜(なつめあおな)

21歳

無職

勇魚、雲、寛容

与那国三志郎

与那国三志郎(よなぐにさんしろう)

モスガールジャー司令官

木畠茜音(きばたあかね)

20歳

大学二年生

鸚鵡、耀

アメシロ

アメシロ

モスガールジャー指令室参謀

落窪一狼太(おちくぼいちろうた)

35歳

夏目藍菜の用心棒兼諸々

山犬、恨

ウラミルフ、リベンジグレイ

リベンジグレイ

モスガールジャーの切り札

伊良賀紗助

21歳

レジスタンス叛逆者

草原

モネログリーン

モネログリーン

モスガールジャーの元隊員

陸奥柚香(みちおくゆか)

19歳

大学二年生

雪割草、蝙蝠

白滝深雪

陸奥柚香

金髪やめて高校時代に戻ったバージョン

白滝深雪(しらたきみゆき)

雪月花の癒し役

白滝深雪

銀髪バージョン

白滝深雪

スーパー魔法少女「黒神子」

竹生夢月(たけおゆづき)

18歳

高校三年生

鳳凰、惨

紅月照宵

紅月照宵(こうづきてるよ)

雪月花の真打ち

紅月照宵

ス-パー魔法少女「身分を隠すため町娘に変装したお姫様。お祭りだって初体験。女剣士に憧れ中。でもその実体は?」

お祭り娘バージョン

深川蘭(ふかがわらん)

25歳

社会人

胡蝶蘭、蛟

紫苑太夫

紫苑太夫(しおんたゆう)

雪月花の仕切り役

紫苑太夫

スーパー魔法少女「華柳」

亀の隊長さん

29歳

地方公務員

甲羅、機動

動的亀甲隊隊長

動的亀甲隊隊長

四名の配下戦闘員と長い脚の亀型兵器で戦う

相生桧(あいおいひのき)

15歳

高校一年生

相生智太の妹


町田さん

フリーの看護師

焼石嶺真(やけいしれま)

19歳

不明

虎、渡鴉

レイヴンレッド、元ヤマユレッド

レイヴンレッド

布理冥尊五人衆

ヤマユレッド

元モスガールジャー隊員

与謝倉凪奈(よさくらなな)

14歳

中学二年生

夜桜、猟犬

ハウンドピンク

ハウンドピンク

布理冥尊五人衆

押部諭湖(おうべろんこ)

13歳

中学二年生

貉、妖精

穴熊パック

蒼柳(あおやぎ)

布理冥尊五人衆

言霊、??

フェローブルー

刀根(とね)

第三方面軍直轄突撃団副長

銅、土

トンネラー

茂羅(もら)

第三方面軍温泉ランド区副司令官

苔、慈

コケライト

佐井木(さいき)

本宮護教隊地方管理部フルーツランド担当

犀、念

サイキック

銀山(ぎんやま)

第三方面軍フルーツランド支部長代理

勝虫、彷

シルバーヤンマー

禿尾(はげお)

第三方面軍直轄渉外隊隊長

銭、任侠

ゼニヨコセー

香山(かやま)

第五方面軍特務隊員

蚊、童、群

モスキッズ

織部(おりべ)

布理冥尊五人衆

花蟷螂、嘲

マンティスグリーン

マンティスグリーン

芹澤の父に擬態中

綿辻(わたつじ)

親衛隊(五人衆付)

蒲公英、迷

メーポポ

大賀(おおが)

布理冥尊五人衆

鬼、痴

オーガイエロー

五木田(ごきた)

親衛隊(五人衆付)

噴射、汚

ジェットゴキ

原田(ばるた)

第三方面軍彩りランド支部長

ヴァルタン征爾

忍者、幻

春日(擬態中)

レジスタンス本部

粘土、鹿

ネンドクン

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