28 真なるバーサーカー
文字数 3,019文字
二足歩行ロボットがメカニックな雄叫びをあげる。二人は合体して巨大メカ化しやがった。全長10メートル。ブラウンメタリックなボディ。柑橘っぽいオイルの匂い。モーター音。対の角を生やした四角い顔は360度回転しそうだ。
『満を持してビビッドパッション登場!』
『私たちの鮮烈な情熱を喰らいなさい!』
スピーカみたいな声。この二人はひとつになっても別個に喋るのか。しかしまたも合体が相手かよ。……レベル100ちょっとの仮面ガイアと仮面アグルが合体したら、レベル200の仮面ネーチャーラピスになった。この二人は120以上と190台。202の俺より上は間違いない。とはいえライフ値はかなりすり減らしたはず。
なんであれ俺がすべきことは、今度こそ夢月を守る。
「私が盾になる。姫りんがだすのは……十三夜にしてみましょう」
「うん」
姫りんはスカっちのすぐ隣で、両手で頭上に丸を描く。
「十三夜、十三夜、十三夜!」
真横から見ると、囲んだ腕の中から羽根のない紅いジャンボ機が生まれてくる感じ。味方である彼女となぜだか二度ほど命を賭して戦ったが、こんなのをよく避けてきたな。レイヴンレッドは至近で逃れやがったし。
「十三夜、十三夜、十三夜、十三夜、十三夜、十三夜」
「ち、ちょっとストップ!」
逃れられないスペースで避けきれない巨体。消滅させてしまうぞ。煙がおさまる向こうには……
『ビビッドミサイル!』
緑色のミサイルが飛んできた! しかも二発!
スカシバレッドは、かぐや姫の前に立つ。
「アルティメットクロス! アルティメットクロス! アルティメットクロス! アルティメットクロス!」
ミサイルひとつに二発当てて爆発させる。爆風がこの子の髪をなびかせる。
『パッションビーム!』
黒煙の向こうからジャンボ機ほどもあるオレンジ色の光!
『パッションビーム、パッションビーム、ビビッドミサイル、パッションビーム!』
しかも緑とオレンジの乱れ撃ち。レベル上位者の波状攻撃。死ねば永遠の闇。
「くそっ、スカっち、しゃがんで!」
背後からお姫様に蹴り倒される。
「変身解除!」
ちょっと前の話。夢月は補習で夜七時まで学校。彼女とは校門で合流した。視線を集め過ぎた二人――。
で、いまの話。学校帰りの制服姿ままの竹生夢月が、秘密基地の狭い空を両手で抱える。そして解き放つ。
「十五夜!」
紅色の閃光が空間を包む。敵の光もミサイルも、音さえも飲みこむ。
ミシミシ……
ガラガラ、ガラガラガラ
生身になって加減されたとしても滅びの光。地下秘密基地が崩れようとしている。
スカシバレッドは立ちあがる。
「げほげほ……」
精霊のくせに埃を吸ってむせてしまう。
「まだ戦うつもり?」
合体した二人へと聞く。返事はない。粉塵もおさまらない。スカシバレッドは、レベル50以下が溶けるほどに籠手のライトをマックスにする。
巨大ロボットはいなくなっていた。
「離脱したのかな?」
そうであって欲しい。スカシバレッドは血の気が引くのを感じる。
「ううん。倒しちゃったよ。ハウンドがどこか聞けなかったね」
夢月の野生の感が断言した。
えーと。俺たちは本部の連中を倒すために独断でここに来たのだけど。
「レベル落ちたのに、生身で月明かりをだせたのね」
現実逃避みたいに聞いてしまう。
「うん。本部相手にはだせるんだ。たぶん魔女にも。カラスにも。ジジイにも」
「ふうん」
そして沈黙。基本的には無口な二人。スカシバレッドは心に雪月花を思う。蘭さんに連絡する。
『先日の話をやっぱり聞いてなかったな。――私たちを信じろ。本部と事だけは起こすな。絶対に単独で動くな』
先日と同じことを聞かされて。
『あっちにも素晴らしい人がいる。那智さんだけでない。
何よりもだ。派閥的に言えば、布理冥尊からの人が二名倒れて、いまは私たちの味方になってくれる方が
なによりお前は死んだらアウトだろ。しばらくは前線にでるな。
断言できる。その辺りの話は、俺は聞き流して夢月はスマホをいじっていた。
「了解しました」と答えて通信を切る。冬制服の夢月へと「モスと連絡とれたよね?」
俺はモスウォッチがないとスマホを使うしかない。いい加減なチームだった。
「うん」
夢月の手にスマホが現れる。そっちもかよ。いい加減すぎる愛すべきチーム。
「あれ? ちょうどアメシロちゃんから連絡が来た。スカっちがでて」
『スカシバレッド? 一緒ならばちょうどいい。レジスタンス東北支部が襲撃された。スーパームーンとともに援護に向かって。強敵二人組だから気をつけるように。おそらくは魔女とレイヴンレッド。すでに那智さんが倒されたらしい』
……えーと。
「那智さんってのは、本部の那智さんかな」
『当たり前だろ。現役時代の名前は鉄人フォルツーナ。特性は“鮪”と“滝”。本部でも私はこの人とだけ会っている。私みたいな下っ端に話しかけてくれた。真面目に見せて根は気さくないい人だったのに』
えーと。赤くて馬鹿で狂った二人は、正義の味方あがりの本部三人を倒してしまっただと?
『追加情報! トリオスは獅子と連絡が取れなくて出動できない。あの女は多々あるらしい。代わりに稲葉さんと伊勢さんが向かった。あの二人で勝てるはずないと桑原から大騒ぎで連絡があった。あなたたちは急いで向かう必要がある。我々も出動するが到着予定は一時間後。以上』
上空に人影がふたつ浮かんでいた。
「また来やがった」
戦闘モードに入った姫が舌をうつ。赤茶色の長髪のセーラー服が空を抱える。スカシバレッドが何か言う時間を与えず、仙台近郊の山に築かれた狭い穴から狭い空へと。
「十五夜!」
紅い滅びの光。それでも生身からだからオゾン層を破壊するまではないにしても、スカシバレッドはへたりこんでしまう。
人影ふたつはいなくなっていた。穴サイズがちょっとだけ広がった。
……レイヴンレッドみたいに避けていないかな。夜空を眺めながら反撃を待つ静けさは五秒。
「スーパームーンか? 私の結界を破るとは……」
聞き覚えのある声。伊勢さんだ! ふらふらながらもふたつの人影が寄り添い現れる。もう一人も男。ウェーブラビットである稲葉さ――
「この野郎、しつこい!」
すぐ隣を紅色の光が包む。しゃがんだままのスカシバレッドに十二単衣がかぶさる。なにも見えない。見たくない。
「十五夜!」
世界を焼き尽くす光。分厚い着物越しでも紅を感じる。熱を感じる。十二単衣は溶けるなり回復していく。
スカシバレッドはここから出たくない。それでも裾から顔を覗かせる。
仙台近郊から山がひとつなくなっていた。広瀬川に越冬に来たユリカモメたちがパニックを起こして騒いでいる。紅色の光がオゾン層にホールを開けながら小さくなっていく。
「私が倒さなかったらスカっちは死んでいたんだよ」
規格外のかぐや姫がスカシバレッドを見おろす。
「私たちも合体できるかな? そして解除したら抱き合ったまま智太君が……。そ、そのままセックスはダメです。でも、栃木のどこかでシャワーを浴びてからならいいよ」
顔まで真っ赤にした赤いお姫様に抱き起こされる。
「ふん! 合体!」
紅色の光に無理やり包まれる。