04 参謀ガールは同級生
文字数 3,206文字
まず胸を確認する。男に戻っていた。ベッドから降りる。靴を履いたままじゃないか!
服を着たままで寝ているということは、あれは夢でなく現実か、夢遊病だかになったのだろう。疲労感はない。
和食屋のバイトが終わってそのまま駅に直行したから、白い渦が現れたのは夜十時半として、今は深夜二時半。体はどこも怪我していない。だとしても夢であるはずない。
母親を起こさぬように足音を忍ばせてバスルームに降りる。……妹も寝ているな。飼い猫が「いつ帰ったの?」って感じに不思議そうに寄ってくる。
裸になっても鏡には、ありふれた顔の俺が写るだけだ。さらには、こざっぱりした特徴もない髪型。中肉中背の平均的な体。潜入者にもってこいかもしれないのが、水たまりに映った女の子を思いだす。すれ違った百人が振りかえり目で追う容姿……さすった肌も思いだす。シャワーを浴びて眠りなおす。
モノクロの彼女の顔が浮かび、まったく寝付けなかった。
おかげで翌朝は寝過ごした。
「智太は知らぬ間に帰っていたね。
冷めた朝食を食べる俺にそう言って、母親は出勤していった。
今日は金曜日なので大学の授業はある。来週から前期テストが始まる。どちらを選ぶべきか。
俺はオウムとの約束を選ぶ。自宅の最寄りの駅で改札に引っかかる。
「ここを抜けるときにちゃんとタッチしなかったようですね」
駅員に言われる。
昨夜の出来事は現実に決まっている。本当の俺に戻り、自分のベッドへと転送された。
俺はなぜか安堵を覚える。だったら、またスカシバレッドに会える。
***
アメシロとかいうオウムは俺を知っているようだった。通学に使ったこの駅を指名したことから、推測するに高校時代の同級生。俺は部活とかに所属していなかったから、同じクラスの奴だろう。女らしいが、親しくした女子なんて絶滅危惧種ほどしかいない。というか、超短期間付き合った子以外に顔を思いだせるのもいなかった。
指定された店だと思われるチェーン店のカフェに十一時五分に到着する。入り口前で腕を組む同年代の女がいた。こいつならば知っている。一年と二年で同じクラスだった、
高校時代黒髪のショートヘアだった木幡は、茶髪のショートヘアになっていた。縞柄のシャツに紺色ジーンズ。俺に気づき眉間に手を当ててため息をつく。すぐに顔を上げる。
「とりあえずお店に入ろう。お金は経費からだすから立て替えておいて。レシートは忘れずに、私はアイスオレ。シロップはいらない」
すたすたと歩き、一番隅の席をキープする。……こいつがアメシロか。鳥になど変身するうえに、名前の由来はアメリカシロヒトリだな。クラスを仕切っていた彼女を思いだして、なんだか嬉しくなった。こいつより俺のがかわいいし。
久しぶりとか、言いあえる仲でもなかった。担任とか共通の話題も盛り上がらないだろう。
「教えておくべきことを、
木畠がさっそく言う。俺はアイスティーを半分飲んでからスマホをだす。昨夜所持していたバッグもちゃんと抱えて人に戻っていた。
「夏目って誰?」
「司令官。与那国三四郎の本名は
大学名を伝えると、「私は」と俺より随分偏差値の高い学校名を挙げた。アドレスの交換を終えると、すぐにメッセージが届く。
「とりあえず読んで。その後に話したほうがいいよね」
木畠がストローに口をつける。
***
スカシバレッド君、いや今は相生智太君か。どちらにしろ昨夜はお疲れであった。私は現実世界では外出が厳しい身の上だから、我が参謀であるアメシロの実体だけで失礼させてもらう。ここに記されたことをよく読み、そのうえで彼女に質問すればいい。彼女が回答困難ならば私に連絡させたまえ。
一段落したら、昼食に好きなものを好きなだけ食べてくれ。もちろん私からの
おそらく君が一番気にしているであろうモスプレイのことから教えるべきかな。あのエネルギー不用の地球にやさしい漆黒の攻撃ヘリコプターは、我々の指令室を兼ねている。旧日本国海軍『金剛』型の主砲をはるかにはるかに凌駕する破壊力のエナジー弾を無制限に撃つことができる。機体は私の精神エナジーから産みだされたものだから、破壊されても何度でも復活する。そうは言っても、撃墜されたのは一度しかないがな。
復活といえば、君もレッドの状態で大怪我しても、実社会でひと眠りすれば、彼女は元気に復活する。すでに経験しただろうが、実体に戻るのは最後に熟睡した場所だ。今後は電車などで爆睡しないほうがいいだろう。
ペナルティも伝えておこう。彼女が怪我を負えば現実社会の相生君に代償がまわる。重傷ぐらいならば、平均的ミッションをクリアすれば相殺される。だが死んだらそうはいかない。とてつもない償いを求められる。責任者である私にも、部下を失った懲罰が与えられる。全滅したらなおさらだ。いくら復活するといっても、負のスパイラルが始まる。
なので我が隊は仲間の命優先で活動している。悪しき奴らを成敗するよりも仲間が生き延びること。命は大事に。これを念頭に戦ってほしい。
お待ち兼ねの報酬についてだ。ミッションを達成すると、その難易度に合わせてポイントが与えられる。これらが溜まればスカシバレッドの能力があがっていく。武器も強まる。つまりはゲームのレベルアップだが、更には現実社会の君にも何かしらの恩恵がある。これは各自バラバラだから、相生君の何が高まるかはおいおい気づくだろう。ペナルティはこれと相反することが多いようだな。
ミッションはチームの実力に合わせて本部から送られてくる。夜が多いが一概に言えない。たまにイレギュラーに昼間来ることもあるし、壊滅必至なやけに困難なミッションが届くこともある。いずれも拒絶できないので、常時戦場の心づもりだけはしていてくれ。
敵は一般戦闘員から地方幹部、中央幹部、親衛隊などなど様々な強さがある。龍の特性を持つレッドが加わったので、我々でも幹部補ぐらいは倒せるだろう、ゆくゆくは……高望みはしないでおこう。我々が担当する関東管轄にはAランクの魔法少女チームが存在する。Fランまで落ちたモスガールジャーは彼女たちの前座や運搬、後始末業務が主であり、強力な敵は彼女たちにまわされる。いずれは共闘を頼まれる立場になりたいものだがな。
隊員のことも知りたいだろうが、いまは戦闘の中で信頼を深めてほしい。おいおい現実社会での祝勝会も復活するだろう。我々はどちらの姿でも仲よくやっている。SNSでもグループを作ってあるから参加してくれ。
君が知りたいことで残るのは、敵の正体、特性、そして精神エナジーだろう。
敵のことはここに記せない。あの四文字はNGワードだ。滅多に口にせず、ネットへの書き込みや検索など
特性に関しては、まだ本部もよく分かっていない。精神エナジー同様に
スマホだとさすがに指が疲れてきたから、私からの説明はこれぐらいにしよう。あとは茜音っちに聞いてくれ。
以上だ。