14 雌雄を決すべく
文字数 2,226文字
稲葉さんの怒りが波濤のように押し寄せる。
「十三夜がダメならそれより強いのはあかんに決まってるやろ。サント号が盾にならんかったら、島が裸になっていたで」
「このために二日間も特訓したのに。ちゃんと考えてスーパーにならなかったのに」
かぐや姫が十八歳にもなって頬を膨らます。
「トリオスは論外や。あんなのフレイムオブなんたらより強いだろ? 三人を殺す気だったやろ?」
「そんな気ありません。初めてなんで、加減が付きませんでした」
タガメであるレアシルバーがしゃあしゃあと言うけど、こいつは皆殺せと叫んだ。
「それよりサント号を落とされるとエナジーが枯渇寸前になると、この前初めて知りました。そんでまたですわ」
タガメ女がばたりと大の字に倒れる。
「私もエナジーをほぼ全て炎に注ぎました」
クワガタ女も地面に両手をつく。
「無効試合ですね。今日のところは終わりましょう」
レインホワイトが安堵する。実戦経験を積む志は消滅している。
「いいえ。今度こそ正々堂々とやり直しましょう。アギトとレアは手を差しだしなさい」
レオフレイムがかしずく。二人の手の甲に唇を当てる。
「「復活しました!」」
アギトゴールドとレアシルバーが跳ね起きる。
フローラルに匂いたつ百合の力でエナジーを回復させたのか。……レオフレイムこそ強い。味方で幸いだ。今は敵だけど。
「どうせ泥試合になる。一人ずつの対戦にしましょう」
蘭さんが無意識にお腹をさすりながら言う。
「まずは赤モス対クワガタ。ついでオウム対タガメ。最後が月対ライオン」
「せやな」稲葉さんが同意する。
アギトゴールドが、げげって顔をした。
***
「始め!」
「ゴールデンファング」
長い金髪のまあまあ美女の両手に金色のソードが現れた。こいつもツインソードの使い手か。
スカシバレッドの両手にもスピネルソードが現れる。同時にアギトゴールドへと飛びこむ。ゴールデンファングを空へ弾き、むき出しの腹へと。
「ファイナルアルティメットクロス!」
赤いXで切り裂くのは気が引けるから、峰打ちで吹っ飛ばす。……これだと足りないからもう一発。
「ファイナルアルティメットクロス!」
「そこまで、そこまでだ!」蘭さんが叫ぶ。
「えげつな……」
などとタガメが言っているけど手加減しての楽勝だった。
「お蘭。それも大技じゃないのか?」
「飛び道具じゃありませんので。次、木畠! 気を張っていけ!」
レインホワイトが緊張した顔で前にでる。白髪ショートのよく見ればかわいい女の子がボクサーの入場みたいに前へでる。
「スカシバ君、解除してもらえんか。戦いに集中できん奴が一人おる」
稲葉さんに言われて、ちらちらした目線に気づく。
スカシバレッドは相生智太に戻り、蘭さんの隣に立つ。晴れた空の下で見る茜音のコスチューム姿はエロ過ぎる。お尻など半分見えているし胸の谷間部分が大きく開いているし……蘭さんが舌を打ったではないか。観戦に専念しないと。
「レインホワイトのレベルはいくつですか?」
「相生と同じで189だ」
強いというか、俺もその数字のままか。このレベルになると、しゃちほこランドでの勝利ポイントを3チームで割ったぐらいでは数値が増えない。あの戦いは仮面ネーチャーで俺だけ参加したけど、報酬を等分する関係でポイントも三等分した。文句などございませんけど。
「だが彼女のコンディションは48%。実戦不足が数値化されている。戦いに携わってきたから並みの新兵よりは高いが、実質レベルは100に達してない。奴らにはそれを伝えてないが苦戦必至だな。――始め!」
レインホワイトは空高く飛び、「光の雨!」を降りそそがせる。
「しゅっ、しゅっ」
亀田であるレアシルバーはフットワークでかわす。
「ホワイトレイニーライト!」
「しゅっ、しゅっ」
亀田元毅であるレアシルバーは固いガードで耐える。
「この試合長びくな」蘭さんが腕を組む。「奴は判定を狙っている」
カーカー
「よってレアシルバーの勝利」稲葉さんが宣言する。
「よっしゃあ!」
レアシルバーのガッツポーズが美しい。サント号を出現させないとか、攻撃の意志がまったくなかったのも
立会人による判定は一対一だったが、地元民には1ポイント入るというローカルルールで、彼女は辛くも勝利をおさめた。忘れかけていたが、三重は名古屋地方でなく近畿地方だった。
「勝ち負けなど関係ない。いい経験が出来ました」
ほとんど攻撃を受けなかったレインホワイトの顔が清々しい。たっぷり経験を積めただろう。
解除して木畠茜音に戻る。……レインホワイトが具現したペナルティで、今回はどれほどの目を覆いたくなる不運が藍菜に待ち受けている?
それはさておき勝敗は一対一。大将戦ですべてが決まる。
紅月であるスーパームーンとレオフレイム。変身したままの二人が向かいあう。
「馬鹿レッド、ただの勝負じゃつまらない。負けた方が相生智太をあきらめる。勝者はスカシバレッドと深雪を自由にしていい。それでいい?」
レオフレイムが言う。なんて奴だ。
「スカも深雪も好きにしろ。でも智太君は譲らない。だから勝つ! お命ちょうだいつかまつる!」
光に包まれうるわしい女剣士が現れる。その手にはルビーソード。
「……興奮してきましたよ。暴走しますよ」
博多出身京娘の浴衣の唐獅子が、より赤く染まりだす。その手にファイヤーダイヤソードが現れる。
「始め!」
二人が駆けだす。