08 強襲して吸収
文字数 3,476文字
『時間だ』アメシロの声。
「どうする?」黒い深雪が降りてきてブルーに尋ねる。
「上に聞け。今後はモスウォッチを持て」ブルーが答える。
『スカシバ君、天誅を喰らわせなさい』
司令官から命令がくだされた。
俺はドアへとソードを交差させる。たやすく破壊した入口へと。
「スカシバーニングクラッシュ!」
全身があふれだす正義の光を喰らわせる。
単身突入してさらに浴びせる。
「スカシバーニングクラッシュ!」
「生身がいるかもしれない!」深雪は叫ぶけど。
「大丈夫です!」グリーンがVサインする。
悪しき精神エナジーのみを倒す赤。コスチュームを着ていない戦闘員は傷つけない。
『深雪はレッドとともに屋内掃討。他の四人は四方を見張ること』
黒神子がつんとしながらやってきた。彼女のシルバーヘアは黒いコスチュームにこそ似合うかも。うっとり眺めたいほど綺麗。
「ごめんなさい」スカシバレッドは昼間のことを謝る。
「屋内の時空を凍らせる。今後は夢月と仲良くどうぞ」
深雪は立ちどまることなく先に進む。
俺は彼女の背中を追う。……強い敵がいないかな。そいつから守れば、すぐに仲が戻るかも。
でも残存は生身で凍った敵ばかり。
深雪はそれぞれの首筋に唇を当てる。精神エナジーだけを吸いとる。
「ここまでは戦闘員だけ。吸われた奴らは良くない目覚めを迎えるけど、記憶を失いもはや召集されることもない」
口もとをぬぐいながら素気なく言う。
弱く動けぬ敵からエナジーを奪って倒す……。正直にいうと、千年の恋が醒めるほどえぐい。気にならない振りをする。エナジー
一階と二階を一周りして、三十数名のエナジーを吸収した深雪は、なおも時空を凍らせ続ける。建物内で動いているのは、彼女とスカシバレッドだけ。
『地下室があると思う。まだまだ吸血鬼の真似事ができそうね』
アメシロの毒のある声。
「深雪をリスペクトしろ!」
使い方が正しいか分からないけどモスウォッチへと怒鳴り、彼女へのポイント稼ぎをする。深雪へもっと話しかけたいのに、音声も画像も司令部へと筒抜けだ。彼女も黙ったまま。
今夜が終わったらしばらく会えないかも。そんな不安がしてきた。でも、それより…………?
スカシバレッドの野生の感。ソードでアルミ棚をそっと切り裂く。地下への梯子が続いていた。
「スカシバーニングクラッシュ!」
赤い閃光のあとに、スカシバレッドがふわりと降りる。黒い白滝深雪が続く。
***
地下は四部屋とトイレがあった。正義の光を浴びせながら一つ一つ漁る。会議室兼食堂、娯楽室兼拷問室……。悪の組織の匂いが漂う。宿直室らしき部屋には、生身から着替えたらしき上級戦闘員が四名凍っていた。深雪のおかげで瞬時にミイラ。残るは一部屋。
「時空を凍らすのはエナジーの消費が激しい。補充がないならあと三十秒で解除する」
深雪の声に疲労を感じる。
「了解」と俺がドアを開ける。「スカシバーニングクラッシュ!」
室内を正義の炎で蹂躙する。私服が五名いたが、三名が消滅する……。つまりそいつらは精霊の盾をまとった幹部。残ったのは男女一名ずつ。生身の戦闘員か、レベル100以上。
深雪がちょっとだけ浮いて、男へと背後から抱きつく。
「
首筋に八重歯を当てる。
俺は凍ったままの女を見る。同年代……ぼちぼちかわいいかな。背丈が170あるくせに愛嬌ある系だ。服装は腕にチェーンを巻いたハードなゴスロリだけど、胸はデカいし形もよさげ。黒髪の横に黄色にメッシュを入れていて…………目が泳いだよな。
「こいつ動くぞ」
俺の声を聞き、深雪が男の首筋から口を離す。
「……180以上か、よほどの特性」
その両手に、神楽鈴と御幣が現れる。
「かしこき、かしこき」
エナジーを吸い尽くされた男(の精霊の盾)へと無数の
「凍った真似してました! 降参します!」
女が両手を上げる。
「私はレベル105しかない親衛隊です。特性が“極寒”なので凍りません。もう一つは“愛嬌”です。すなわちペンギンの精霊です。コードネームは
……コールドレッド。私を一度見逃してくれたよね。もう一度お願い」
東京湾に飛びこんだ2メートルを超す巨体のイワトビペンギン……。スカシバレッドは思いだす。柚香と品川区の水族館にデートする約束も思いだす。おそらく延期か中止だ。こいつらと本部のせいで。
「倒そう」鬱憤を込めて深雪へと言う。「たっぷりと吸ってあげて」
『駄目だ。親衛隊ならば連行する。スカシバ君から本部へのお詫びの品としよう』
与那国司令官が命じる。
「テ、テロリスト本部はやめて。私は二十一の女の子だよ。お、落窪さんはあんたらが匿っているよね。私もお願い! そしたら重要なことを教えるから」
「いま伝えな」深雪が神楽鈴を鳴らす。
「……親衛隊六名がここへ向かっている。うち四名は西日本担当の最強チーム。先遣隊の二名はもうじき到着する。そいつらは九州テロリストが消滅したから、
「沖縄? 一度遠征したことがあるけど、嫌な予感がする」
深雪が顔をしかめる。
「ハデスブラックは?」
俺が尋ねるが、岩飛は首を横に振る。
「もう一つ、いいことを教える。黒岩さんはすでにレベル200じゃない。それ以上だ。私たちは規格外の方々も数値化し始めた」
俺も深雪も強くなったけど、敵もさらに強くなったってわけだ。……親衛隊六体相手だと勝ち目は微妙。
『ミッションを完了させる! 二人は捕虜を連れてすぐに撤収して!』
司令部もそうお思いのようだ。アメシロが懸命に鳴くのに。
『布理冥尊が二体出現! 植物みたいな大蛇に結界を破られました!』
キラメキグリーンが叫ぶ。
『各員グリーンの援護にまわって。屋内の二人も急いで。――識別完了』
名称 ウボツラヅラ
所属地位 親衛隊
特性
ライフ 183/183
コンディション 99%
レベル 181
ボーナスポイント 100
特記 単体時でBランクチーム上のみ対応
名称 バクサー
所属地位 親衛隊
特性
ライフ 120/120
コンディション 99%
レベル 148
ボーナスポイント 160
特記 Bランクチーム上のみ対応
180越えの親衛隊かよ。松の結界を破るほどの強敵。スカシバレッドと深雪が共闘すれば勝てるだろうけど。
「やはりバクサーか。ピンクを守れ!」
深雪はそちらに舌を打った。
「奴は報酬を吸いとる。そのため紅月は生身で月明かりをだせなくなった」
報酬をだと? ……たしかにスパローピンクの健康を奪われるのは避けるべき。というか、竹生夢月は制服姿で月明かりをだしていたのか。増水した荒川を渡りきれなかったとしても、その存在を人間とは言えない。
『グリーンが蛇みたいな植物に呑みこまれました!』
イエローの悲鳴がモスウォッチから響く。
喰われた? 俺でも蒼白になる。助けに行かないと。
『ライフ値は減っていない。……でもコンディションは低下している』
『まだ慌てるなってことだ。腐れ失礼深雪君。ウボツラヅラの攻撃は?』
「金輪際その言葉をつけるな。――噛み砕くか消化するか。前者だと手遅れだから、おそらく消化。防具などを溶かされて全裸になり捕らえられる。時間は数分」
深雪は俺のモスウォッチへと怒鳴り、岩飛へとふわりと浮かぶ。
「キラメキグリーンを殺さないのは、本隊が来るまでの時間稼ぎだ。スカシバレッドはバクサーの相手をして。あなたの望んだ敵かもしれない」
彼女は岩飛の頬に両手をまわす。許してくださいと、女親衛隊員が涙を流す。
大事な情報を提供してくれたのに……。
「殺すな!」
俺の怒声に、深雪が小馬鹿にした顔を向ける。
「本部への土産だっけ? ちょっとだけ残しておく」
岩飛の首に唇を当てる。
深雪が口を離し、岩飛はしゃがみこむ。
「あとは任せる」
黒神子が唇をぬぐい廊下へと飛んでいく。
『ブルーがバクサーの攻撃を喰らった』
モスウォッチが慌ただしい。
俺こそ早く行かないと。
スカシバレッドは岩飛を見おろす。こいつはエナジーがスカスカ状態。
「逃げるなり好きにして」
布理冥尊である若い女性に言い、背を向ける。深雪の後を追う。