01 ファン投票の行方
文字数 2,628文字
入院中の司令官が暇つぶしのために開催した企画は、予想外の反響を呼んだ。
無記名投票には傭兵たち十名、亀甲隊戦闘員四名、モスガールジャー四名と落窪さん、なんと仮面ネーチャーの二人まで参加してくれた。総勢二十一名。その結果は以下のとおりである。
一位 シルクイエロー 6票
二位 スカシバレッド 5票
三位 紅月照宵 3票
四位 スパローピンク 亀の隊長 各2票
五位 エリーナブルー 紫苑太夫 各1票
無効票 1票
さすが巨乳のシルクだが、紅月を抑えてのスカシバレッドが二位。亀の隊長が二票だけで分かるように忖度無しの結果でだ。
かと思ったら、藍菜から俺に連絡が来た。
『ルールだと、モスガールジャーは自分に投票するの禁止だったよね。誰が誰に入れたか調べたら問題が発覚したけど、黙っておいてあげる』
添付されたリストは、獲得投票の内訳であった。
エリーナ 傭兵
シルク 傭兵 傭兵 亀甲 亀甲 仮面 落窪
スパロー 傭兵 亀甲
スカシバ エリ シル スパ スカ 傭兵
キラメキ
紫苑太夫 傭兵
紅月照宵 傭兵 傭兵 亀甲
白滝深雪
亀の隊長 傭兵 仮面
地下ドル 傭兵
スカシバレッドは仲間に(エースとして)忖度されての二位だったのか……。しかも自分で自分に入れたのがばれている。無記名だったのに。
それ以上に問題は、柚香がまさかの0票な件だ。まだ知名度がないキラメキグリーンは仕方ないとして、深雪はやはり地味系だからだろうか。ただ。
俺が投票しなかったのがばれてしまった。
『下劣な男の玩具になりたくないし、あんな結果どうでもいいけどさ、オウムが大喜びって噂があるのがね。――どうせお前は夢月に入れたのだろ?』
端末から聞こえる柚香の声が低くて怖い。たしかに茜音は大喜びで拡散して、本部からの月報で全国の組織にも流れた。
「無効票が俺。間違えて柚香の本名を書いた」正義の味方でも窮地には嘘をつく。
『あれは傭兵がうけ狙いで推しを書いて、本当は黄モスって月報に載っていた』
「……じつは、俺は俺に入れた」
『自分には投票できねーだろ。……最低一票は入ると勘違いしていた。私、本当にショックを受けているから。もう連絡しないで』
蘭さんに続いて彼女にまで端末をロックされた。連絡を取れる最後の一人からメッセージが届く。
『月だよ♡私3位だったよ。黄デブは癒し計だから勝てないけど、スカの2位は組織票だよ。あの女、絶対自分に投票だし。それで智太君は誰に入れたの? もしかして私の3票は全部智太君だったりしてデレ』
異世界に返信している場合ではない。藍菜へと電話する。お願いする。
『私が手を打ってもいいけど。その代わり、これは与那国三志郎へのスカシバレッドの貸しになるからね。それでいい?』
承諾するしかない。
藍菜は好評につきということで、早速第二回を開催する。ただしルールを追加した。
・同じチーム内への投票は禁止
・年配者への投票は禁止
・怖そうな人への投票は禁止
・戦闘においてフォローしてくれそうな人への投票を推奨
今回は仮面の二人は不参加で十九名からの投票になったが結果。
一位 シルクイエロー 10票
二位 白滝深雪 4票
三位 スパローピンク 3票
四位 エリーナブルー 亀の隊長 各1票
スカシバレッドが0票になってしまったが仕方ない。驚異のシルクイエローのスイカパワーだが、なんとか柚香が二位になった。彼女も『へへへ』とご機嫌が戻った。
モスの組織票の四票だけとは意外だったが……、つまり落窪さんは亀の隊長か。彼から見れば年配ではない。
『巫女ちゃんが二位になって智太君も鼻が高いね。それと、近々本部からの人間を含めて関東管轄一部のメンバーの会議がある。それに参加してもらうことになったからよろしく。貸しを忘れないでね』
藍菜から連絡が来た。以前は頭に腐れをつけていたのに、最近はお尻にちゃんづけだ。
会議なんて始めてだ。本部の人と会うのもだ。貸しがあろうがなかろうが、断る理由などない。そもそもソルジャーは上からの命令に絶対なのだし、戦場では。
おそらくその会議も戦場だ。そんな予感がする。
***
会議は、藍菜が退院する日早々に行われることになった。本部から一名。モスからは司令官、俺と清見さん。雪月花からは蘭さんと柚香。仮面ネーチャーから非番の一人が参加する。総勢七名。
平日だから夢月は参加できない。桧も学校だから邪魔されずでかけられた。でも来週から俺も二学期だ。昼バイトが出来なくなる。
会議は午後一時半からで、俺と柚香は十一時に池袋で合流する。出掛ける前に目薬を差してきた彼女は、サングラスをしていない。バンダナも日傘もなく、眼鏡(変装用ではない)とマスクだけだ。
彼女はメイクに凝りだした。先週会ったときは濃すぎてぎょっとしたけど、今日は隣にいて恥ずかしくない。中途半端に伸びた髪をちょっとブラウンに魔法で染めている。就活用のスーツとの組み合わせが大人っぽい……。会議に参加するのなら、俺もTシャツとデニムはやめるべきだったな。司令官がジャージ姿で来てくれたらいいけど。
「木畠はまだなの? 自分から呼んでおいて」早速不機嫌だ。
「学校の用事が長引いたから来てくれだって。夏休みでも学食が開いているらしい」
今後のことの情報収集のため、大学二年生の正義の味方という同じ境遇で集まろうと、茜音が発案した。仲が良くない柚香が、二つ返事で了承した。マーチな二人に俺の学校の情報が役に立つか分からないけど、誘わないわけにはいかないのだろう。
「はあ? 行くはずないし。智太君、二人で食べよう」
柚香は知らぬ間に俺を名前で呼ぶようになった。相生ウイルスに感染したときは
「茜音とだと、食費がモスから落ちる」
二人は西口から街へとでる。ルートは柚香が知っていた。
あの大学も合格したけど蹴った。木畠と違い私は一般入試だった。あの団体と受験数日前に戦わなかったら第一志望にも合格していた。数学が嫌いだからセンターは受けていない。でも地方の国立なら余裕だった。関東管轄で正義の味方をしたかったし、実家が豪農だから東京の私立一本にした。
四回ぐらい聞かされた話を道すがら聞かされる。