14 新歓バトル
文字数 2,458文字
「アグルだ!」
仮面ネーチャーのバイクすなわちネーチャーバイクが廃墟の窓ガラスを突き破る。
「降臨!」
用法が正しいか未確認のままだが、スカシバレッドも続く。
「ネ、ネーチャーだ!」
「コールドレッドも――」
戦闘員たちの悲鳴。スカシバレッドは冷血呼ばわれが固定している。
「くらえ!」
「とお!」
仮面の二人は車上からの蹴りや投げ技だけで戦闘員を抹殺していく。たまにバイクで轢いたりする。
……! 野生の感。
「こっちです!」
浮かぶスカシバレッドが二人を導く。
大型バイクが階段を駆けおりる。大浴場であった跡地をヘッドライトが照らす。私服の布理冥尊が五人いた……。
スカシバレッドの感がことさら戦慄する。何がいる?
「コールドレッドがネーチャーと組むとはな」
ボブのヘアスタイルの与謝倉凪奈が俺をにらむ。……こいつは補助系の豆柴犬。
「窮余の策。やはり花は離脱した。焼石と諭湖の推測は当たりだな」
シニカルな口調の青いシャツに眼鏡の色男は蒼柳。ウィローブルー。生身の状態でスカシバレッドを連れ去ろうとした奴。この子を色欲の目で見た野郎。こいつこそ危険だけど。
「でも、こいつは雪と組むと思っておりました。申し訳ございません」
押部諭湖。つい先日、相生智太と並んで歩いた女の子が頭を下げている。こいつも敵だが。
「三人で私たちに勝てるつもりですかね」
ずんぐりした小柄でショートヘアの女が笑う。その足もとに一般人男性が二人転がる。傭兵さん……。顔が腫れあがっている。
女がビキニ姿になりさらに力を込める……。こいつじゃない。
「この女が四人目のレッドか」
捕虜の前でしゃがんでいた男が立ちあがる。190センチメートルほどの巨体。灰色のラガーシャツ。ラフな長髪。
「……スピード系か?」
スカシバレッドを獲物として見る。暴力と邪悪な匂いが漂う。
こいつだ。
「にょろにょろ」
小柄だった女が巨大化して、二本足で立つウナギの異形と化す。
蒼柳はスカシバレッドを見ている。
与謝倉も睨んでいる。
押部諭湖も見つめている。
仮面ネーチャーがバイクから降り、横に並ぶ。
「男よ。貴様は門番だな。名を名乗れ」
「百夜目鬼もいるのか?」
二人から緊張が漂う。
「大司祭長はおられない。俺たちは、蒼柳や与謝倉など本宮中枢を守る役目も負った」
言いながら、男がずけずけと俺たちに歩む。
「なのであの方がいなくても、この姿になる」
与謝倉は腕を組んで男を見ている。嫌悪の眼差し?
男が体に力を入れる。その体が――。
「アルティメットクロス!」
スピネルソードをクロスさせる。男が吹っ飛ぶ。
スカシバレッドは速さだけではない。獲物が獲物に飛びかかる。もっと強烈な技。
「ファイナルアルティメットクロス!」
この子の叫びが大浴場に反響する。男をクロスに切り裂く。
「ファイナルアルティメットクロス!」
大技を連発する。浴場が赤く照らされる。
「こ、この女め……」
男が変身できぬまま立ちあがる。
「ぐえ」
スカシバレッドに顔面へ蹴りを入れられる。
さらに。
「ツインネーチャーキック!」
仮面の二人のドロップキック。
吹っ飛んだ男へと。
「ファイナルアルティメットクロス!」
スカシバレッドが倒れ込むように切り裂く。
門番だかの巨漢が戦うことなく消滅す――。
「離脱」蒼柳の声。
白目をむいた男が薄らいだまま転送される。
大浴場に沈黙が漂う。露天風呂へのドアが風でバタンと閉まる。
「実戦不足だな。――スカシバレッド。あいかわらず美しきワルキューレ。私もお前に生死を定められたい」
蒼柳がまた俺を見る。
「だがエナジーをだいぶ消費したな。もっともっと減らしてくれ」
好色に見やがる。
「宴の後!」
見ているだけだった与謝倉が、ツインテールになっていた。つまりマントで体を覆って
「仮面ネーチャー、出遅れたな。もはや合体できまい」
闇の中、ざまあと笑う。
なんだと? 伝説というべき瞬間を楽しめるよう、あえて考えぬようにしていたのに。心をピュアにしておいたのに。その心へとネタバレしやがって。
「諭湖は凪奈様を守れ。我々が不甲斐ないから、あんな奴らが来る羽目になった」
ウナギの異形が、長い体で蒼柳を囲みながら言う。
「
「そんなの誰でも分かる」
ハウンドピンクが体に力を込める。
「スカシバレッド。私は育ち盛りなの。レベル180を越えたら、宴の後の結界に仲間を巻き込まなくなった。諭湖も蒼柳も精霊になれる。それに」
その体が……薄紅色のアフガンハウンドになる。……長い毛並み。気品さえある。
「さあ。私を倒しに、私のもとに来るがいい」
その横で押部諭湖の手にマントが現れる。
「蒼柳様は捕虜を連れ帰るべきかと。……混沌が待ちかまえております」
黒いビキニ姿。棒みたいな体を恥じらうようにスカシバレッドから逸らす。さらに力を込める。その姿が消える。見えない姿。穴熊パック……。
「つまり、自分たちも連れ帰してほしいのか? だが私はまだ戻らない」
蒼柳の手にも青いマントが現れる。眼鏡が消え、焦げ茶色のシャツになっただけ。でもウィローブルー。精霊と人の中間。その姿で、まだスカシバレッドを眺めていやがる。
「レッドはハウンドピンクを倒せ」ガイアが言う。
「僕たちは援護する」アグルが付け足す。
二人は合体できなくても、先ほどの破壊力あるキックのように合体技はだせる。本部の広報(今後は端末に配信される。以前はモスウォッチの小さい画面かモスプレイの大型ビジョンでしか見れなかった)に書いてあった。
「了解です」
スカシバレッドはスピネルソードにエナジーを注ぐ。
「花筏!」
薄ピンクの花びらが無数に襲ってくる。
「スカシバーニングクラッシュ!」
弾き飛ばす。
アフガンハウンドが俺へと飛びかかる。ソードを向けるのを躊躇する。とりあえず首を掴む。
捕まえたけど。
犬が笑った。