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文字数 3,445文字

 十二月も半ばを過ぎてしまった。

 沖縄米軍キャンプでの戦いはサンゴ礁を傷つけることなく終焉したそうだ。龍が身を挺したおかげでモスプレイは辛うじて生き延びた。夢月と柚香も、レインホワイトが身を挺したおかげで生き延びた。茜音は死んだがコンディションが良すぎてすぐに復活したらしい。
 米軍キャンプが吹っ飛ぶほどの最後の最後の最後の切り札である自爆装置を持つ与那国司令官と、兄を永遠の闇に送ったことで狂乱するローリエブルー。

「ならば私を倒しなさい」

 シルクイエローが二人の頬を(はた)いた。

「陸さんがさあ、やっぱり一番強いね」
 焼石が言ったそうだ。
「私とさあ正反対だ。相生智太を連れ戻すために語りあえ」

 焼石が大の字に倒れる。それで戦いは終わった。俺もちょっとは役に立ったのだろう。

 ***

「よく帰ってきた」

 蘭さんがわざわざ俺のもとに来てくれた。寝ている俺を泣きながら抱きしめてくれた。お腹が当たった。その後ろで吉原さんが、ただの人に戻った俺を複雑な顔で眺めていた。

 *

 入院は永遠の闇より暇だ。でも体力が回復するまで動けない。出席しなくても卒業できる学校の学部でよかった。それまでいるか分からないけど。

「ニューヨークのお祖母ちゃんがコネとお金を使ってくれたから、智太君の大学に推薦裏口入学できたんだよ。驚かそうと思って黙っていたんだよ」
 夢月がにこにこ教えてくれた。
「しかも飛び級で、四月から智太君と同じクラスに入れます。二年で一緒に卒業だね」

「大学行かなくていいよ。夢月が高校卒業したら結婚しよう。だから俺は働く」
 ベッドに横たわったまま告げる。

「えっ、いきなりです……。でも、そしたら毎日セックスできるね」
 プロポーズを受け入れてくれた。

 彼女は雛のままで戦いを終えた。深夜の井の頭公園でスク水経由で力を込めたが、やはり紅いヒヨコだったらしい。
 魔女が力を失ったのに、夢月の手にマントは残っている。千由奈の手にも。焼石の手にもらしい。色付きマントは魔女の手を離れるみたいだ。


 生身の夢月は魔法を使えなくなった。陸さんの女性ホルモンも消えた。俺の性フェロモンも正常に戻った。すべてが誰もが夢……藍菜には多額の資産が残ったままだ。リアルな報酬をもらった奴が勝ちみたい。というわけでもない。たとえば隼斗。あいつは自力で強い体と心を育んでいた。健康を失おうが健康のまま。なのに泣いてばかり。

 *

「マント? お兄ちゃんが帰ってきたら消えたよ。当然でしょ!」
 桧にかわいい顔で怒られた。
「夢月さんがご飯用意するわけないよね? お兄ちゃんならバランスよく作るから心配ないけど」

 俺は退院したら竹生堂の裏で夢月と住まうことになっている。石神井公園の裏の裏では、桧と千由奈が同居している。湖佳は沖縄に残っている。魔女だった人の看病を続けている。

 *

「私はマントを破らない。自分のためにじゃない」
 正義の女である千由奈に言われる。
「中学生活はつまらないな。隼斗君も我慢しているのだから、私も通っているが」

 千由奈は義務教育しだした。実家には連絡してない。兄はまだ入院していて、両親は金だけだしているらしい。でも強い戦友。援助があれば生きていける。いずれ自力で生きていくに決まっている。
 湖佳はまだ沖縄で魔女の世話をしている。

 *

「高校まではエスカレーターで行かせる。そこから先は自分で道を決めさせる」

 藍菜が言う。彼女は名古屋市に莫大な寄付をした。残った莫大な金から千由奈たちの生活費を補っている。

「智太君はいらないよね。莫大な不動産の相続人の旦那ならばね」

 藍菜はまだモスガールジャーの端末を持っている。千由奈と同じ理由でだ。人智では対抗できない災難が襲ったとき、オカマスナックのママ、高校に復学した女の子、中二のイケメン君は召集されるのだろう。キバタンだった同級生も。

 茜音は病室に顔をださない。会わす顔がないそうだ。誰も気にしてないのに。彼女も藍菜ぐらい心が太ければいいのに……。時がすべて水に流す。前だけ見ていこう。

 *

 焼石も魔女の世話をしている。どちらとも会う機会もないだろう。トリオスとも。
 だと思ったら三人が病室に来てくれた。

「元気そうたい。スカシバしゃんと会えんのが残念ばい。素敵な女性やったな」

 流ちょうな標準語が使えなくなっても、穂村は何もなかったように接してくれた。飾りじゃなくて本心だと分かる。やはり規格外だ。彼女にマントはない。

「えらい目に遭わされたけどな、お互い様にしとくわ」
 タガメ女だった亀田が笑う。それはこっちのセリフだ。

「陸奥さんのこともまったく恨んでないと伝えてな。連絡先教えてくれたら自分でする」
 クワガタ女だった桑原が言うけど、こいつは腹に一物ある。教えるはずない。

「春に小さなパーティーを開くので、よければ参加してください。夢月はもちろん柚香とも会える」
「なかなか太らんばってん夕食は何カロリーと?」
「こほん。ほな三人で余興しますわ。俺たちは敵でない。戦友だった」
「なんでパーティー代はお安くしてください」

 三人は都庁の展望台に寄ってから帰るそうだ。端末がない彼らはもう戦えない。俺と同様に。

 ***

 一月になってしまった。

「焦るなよ。昏睡状態で運ばれたときは干物みたいだったんだ。青モス以上だった」
「退院したら『昼は蝶』でお祝いだから、がんばれよ」
「ぜひともお願いします、ぐひひひ。相生さんが元気にならないと私は旅にでられません、ぐひひひひひひ」

 仮面ネーチャーの二人は非番の昼はほとんど見舞いに来てくれる。その日は二人そろって休みで、落窪さんも一緒に来てくれた。
 落窪さんは陸さんの店で臨時バーテンダーをしているそうだ。ぜったいに似合っている。女の子はいなくなったけど落ち着いた店に生まれ変わっているのだろう。

 *

「ママと正義の味方は続けます。陽南ちゃんにはやめてもらいました」
「いずれ貴殿の分まで戦います。……スカシバレッドの分までも」

 陸さんは芹澤と来てくれた。女性ホルモンがなくなっても陸さんは強烈だった。心がほどよい強さになった芹澤はあいかわらず直立不動だった。隼斗が来なくてほっとした。あいつは俺を見ると泣いてばかりだ。

 *

「俺は詫びた。親は許してくれた」
 紗助君も見舞いに来てくれた。
「働き始めたけど……相生は北海道で牧場をやるらしいな。俺も使ってくれるかな」

「はい?」本人も初耳だ。

「夢月ちゃんが言ってたっすよ。サプライズだから黙っていてね。でも恥ずかしいからちょっと耳に入れといてだそうです」
 岩飛に教えてもらう。彼女も埼玉に帰りコンビニでバイトしている。
「私も北海道行きたいな。ペンギンのころは寒いの平気だったし」

「夢月の夢物語と思ってください」

 そう答えたけど、北海道か。夢月の曾祖母の援助で広大な草っぱら……。紗助君と岩飛に助けてもらえたら最高だ。しかし意外な二人がくっついたな。

 ***

「私より元気そうじゃないか。追い越されそうだ」
 清見さんが仮退院した足で見舞いに来てくれた。

「競争ですね。へへへ」

 柚香も一緒に二十七回目の見舞いに来てくれた。彼女は先週も上京した野原宏と一緒に来ている。あちこちから頼りにされている。よかった、よかった。

「婚約おめでとう。これからは竹生一筋だな」

 清見さんに念押しみたいに言われるけど、じつは二人きりの時に、見舞いに来た柚香とキスしてしまった。しかも二回。
 これからも柚香と友だち以上の関係が続くといいかななんて思う、あいかわらず腐れ外道の俺だけど、柚香こそ大好きだから仕方ない。いずれ離れざるを得ないのだから、入院中ぐらいは赦してもらおう。



「へへへ、いつも賑やかな病室だね」
 夕方柚香がひとりで戻ってきた。リンゴを剥いてくれる。
「夢月に正義の味方を続けようって言われた。一緒にマントで変身しようだって。聞いている?」

 それも初耳だ。夢月は婚約者への報告を怠っている。

「柚香はなんて答えたの?」
「もう卒業したいって言った。夢月だけには戦わせたくないとも言った」

 柚香と目が合う。俺は腰を上げる。柚香の顔が近づいたところで、個室のドアが開いた。

「お、お、お兄ちゃんたちは、何やっているの?」
 桧が真っ赤な顔で怒っていた。
「夢月さんには黙っているから、柚香さんは帰りなさい!」

 後ろで千由奈が呆れている。その隣で隼斗が笑っていた。笑ってくれた。

「やはりそういう男でしたな」

 湖佳も笑ってい――湖佳が帰ってきた!
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登場人物紹介

相生智太(あいおいともた)

20歳

大学二年生

龍、陰

スカシバレッド

スカシバレッド

モスガールジャーのエース

清見涼(きよみりょう)

22歳

大学四年生

鶚、村雨

エリーナブルー

エリーナブルー

モスガールジャーの実質リーダー

睦沢陸(むつざわりく)

23歳

フリーター

猪、貫、西瓜

シルクイエロー

睦沢陸

たっぷり女性ホルモンを授かったバージョン




シルクイエロー

モスガールジャーの陸戦巨乳隊員

壬生隼斗(みぶはやと)

14歳

中学二年生

巨樹

スパローピンク

壬生隼斗

すっかり健康になったバージョン

スパローピンク

モスガールジャーのちびっこ隊員

芹澤陽南(せりざわひなた)

17歳

流星、向日葵

キラメキグリーン

キラメキグリーン

モスガールジャーのニューグリーン

夏目藍菜(なつめあおな)

21歳

無職

勇魚、雲、寛容

与那国三志郎

与那国三志郎(よなぐにさんしろう)

モスガールジャー司令官

木畠茜音(きばたあかね)

20歳

大学二年生

鸚鵡、耀

アメシロ

アメシロ

モスガールジャー指令室参謀

落窪一狼太(おちくぼいちろうた)

35歳

夏目藍菜の用心棒兼諸々

山犬、恨

ウラミルフ、リベンジグレイ

リベンジグレイ

モスガールジャーの切り札

伊良賀紗助

21歳

レジスタンス叛逆者

草原

モネログリーン

モネログリーン

モスガールジャーの元隊員

陸奥柚香(みちおくゆか)

19歳

大学二年生

雪割草、蝙蝠

白滝深雪

陸奥柚香

金髪やめて高校時代に戻ったバージョン

白滝深雪(しらたきみゆき)

雪月花の癒し役

白滝深雪

銀髪バージョン

白滝深雪

スーパー魔法少女「黒神子」

竹生夢月(たけおゆづき)

18歳

高校三年生

鳳凰、惨

紅月照宵

紅月照宵(こうづきてるよ)

雪月花の真打ち

紅月照宵

ス-パー魔法少女「身分を隠すため町娘に変装したお姫様。お祭りだって初体験。女剣士に憧れ中。でもその実体は?」

お祭り娘バージョン

深川蘭(ふかがわらん)

25歳

社会人

胡蝶蘭、蛟

紫苑太夫

紫苑太夫(しおんたゆう)

雪月花の仕切り役

紫苑太夫

スーパー魔法少女「華柳」

亀の隊長さん

29歳

地方公務員

甲羅、機動

動的亀甲隊隊長

動的亀甲隊隊長

四名の配下戦闘員と長い脚の亀型兵器で戦う

相生桧(あいおいひのき)

15歳

高校一年生

相生智太の妹


町田さん

フリーの看護師

焼石嶺真(やけいしれま)

19歳

不明

虎、渡鴉

レイヴンレッド、元ヤマユレッド

レイヴンレッド

布理冥尊五人衆

ヤマユレッド

元モスガールジャー隊員

与謝倉凪奈(よさくらなな)

14歳

中学二年生

夜桜、猟犬

ハウンドピンク

ハウンドピンク

布理冥尊五人衆

押部諭湖(おうべろんこ)

13歳

中学二年生

貉、妖精

穴熊パック

蒼柳(あおやぎ)

布理冥尊五人衆

言霊、??

フェローブルー

刀根(とね)

第三方面軍直轄突撃団副長

銅、土

トンネラー

茂羅(もら)

第三方面軍温泉ランド区副司令官

苔、慈

コケライト

佐井木(さいき)

本宮護教隊地方管理部フルーツランド担当

犀、念

サイキック

銀山(ぎんやま)

第三方面軍フルーツランド支部長代理

勝虫、彷

シルバーヤンマー

禿尾(はげお)

第三方面軍直轄渉外隊隊長

銭、任侠

ゼニヨコセー

香山(かやま)

第五方面軍特務隊員

蚊、童、群

モスキッズ

織部(おりべ)

布理冥尊五人衆

花蟷螂、嘲

マンティスグリーン

マンティスグリーン

芹澤の父に擬態中

綿辻(わたつじ)

親衛隊(五人衆付)

蒲公英、迷

メーポポ

大賀(おおが)

布理冥尊五人衆

鬼、痴

オーガイエロー

五木田(ごきた)

親衛隊(五人衆付)

噴射、汚

ジェットゴキ

原田(ばるた)

第三方面軍彩りランド支部長

ヴァルタン征爾

忍者、幻

春日(擬態中)

レジスタンス本部

粘土、鹿

ネンドクン

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