16 男子会で知る真実

文字数 3,678文字

「お兄ちゃんが男の人たちと! ……お兄ちゃんはラブには目覚めない。でも桧も一緒に行く!」

 お兄ちゃんは大事な仲間と大事な話をするんだよ。今日だけはついて来ちゃ駄目だよと、きっぱり拒絶する。

「この前だってカフェに桧を連れていかなかった……一緒に行ったっけ? 夢かな?」
「夢だし、今日だけは無理」

 柚香はがっつり消えると豪語していたのに、桧はうろ覚えな感じだ。
 とにかく一般人の記憶を消すのは一度が限界だそうだ。二度かけると脳に障害が起きるでは、連れていけるはずがない。ちなみに布理冥尊の洗脳も不可能になるらしい。桧が悪の手下に堕ちる心配もなくなったって、この子はむしろ善だ。

「……だったら、手をつなぎなさい」

 また夢を見たのかな?
 俺は猫を膝に乗せて妹の手を握り、片手で朝食をいただく。
 桧の手の感触は昨夜の三人のいずれとも違う。そりゃ今の俺はゴツくてデカい男の手だけど、これかもなとヒントを得たような。

 ***

「もう皆さんお揃いですよ。隼斗君も元気ですよ」

 今日もシフトは町田さんだった。病室の前で椅子に座って読書している。
 若い女性は室内にいないと言うので、マスクとサングラスをはずす。緊張しながらドアを叩く。
 どうぞと、壬生隼斗の声がした。

 今日の隼斗はベッドに腰かけていた。折り畳み椅子に座る好対照の男性二人と向かいあっていた。

「君がレッドか……。私は清見涼(きよみりょう)。相生君、初めまして」
 眼鏡をかけてこざっぱりした縞柄シャツの背高い男が会釈する。
「初めてではないけどな。私がいわゆるブルーだ」
 握手を求められる。

 女のときのイメージそのままじゃないか!

 清見さんは若く見えるから年齢分からない。本当はおいくつですか? 二十二歳だよ。昔から落ち着いているから年寄りに見られるんだ。冗談やめてくださいよー。だったら私テイクアウトされちゃいますよー。我慢できない、今すぐ私をイートインして。

 同じ男としてこれはずるい。フェロモンなど必要なく、二十年間女にもてまくりなおも進行中のタイプだ。
 その横で、やはり180センチほどの角刈り男がそわそわしている。横にもがっしりした体格でTシャツの腕は剛毛だけど……。

「わ、私は睦沢陸(むつざわりく)です。あの……シルクイエローです」
 俺をじっと見て、安堵したように微笑む。
「よかったけど残念です。私も男なのでフェロモンを感じられません。相生さんをただの二十歳の子にしか見えません。……じきにばれるでしょうから言っておきます。こっちの世界の私はオネエです」
 両手で握られる。

「ふふふ、陸さんを見て予想通りの顔している」
 ピンクの毛糸帽子の男の子が笑う。
「智太さんも座って。男四人の密談だね」

 ベットを枕側にずれて、言葉を選べぬ俺の席を開ける。あらためてと、はにかんだように手をだしてくる。三人の男とも手を握りあえた。



「君があんな報酬を打ち明けてくれたのだから、私も言わないとならないな。
私の報酬はおそらく“知性”だ。私は千葉県内の国立大学工学部の四年生だが、夜の自習時間が明らかに減ったのに、成績は半比例した。苦手だった教授の覚えもよくなり、卒論に向けて自信がついてきた。就職活動はせずに院に進む予定だ。
ペナルティの影響も努力で補いそこまでではない。正義を守ることで、学業からちょっと逃げているかもしれないけどな」

 清見さんは笑うけど、ふいに俺から目を逸らす。一人で喋りすぎたのを恥じた感じに。

「わ、私も告げるべきですよね」
 陸さんが上目遣いに見てくるのでゾクリとしてしまう。
「私は高校卒業後に何社か働いて、いまは無職です。昼間限定のバイトを渡り歩いています。……私の報酬は相生さんと逆というか……“女性ホルモン”です。いっときは体毛も薄くなり、お肌もツルツルになりました。今はこんな体に戻っちゃいましたけど」

 だから、もじもじしないでくれ。椅子が壊れるぞ。
 隼斗が楽しそうに清見さんに顔を向ける。

「ついでに女子二人のもバラしちゃうよ。茜音さんの報酬は僕に似ているけど、“コンディション”。生理が軽くなったりお通じがよくなったりだけだけど、今日まで戦っていないから仕方ないよね。
逆に碧菜さんは、チームの全責任を背負っているからすごい報酬。とてつもなき“金運財運”。広尾の低層マンションに住んでいて、運転手付きの外車。僕の個室代とか未認可治療のお金もだしてくれる」

 それこそずるいと思う。金さえあれば女にもてるし、ホルモン注射だってやり放題だ。

「それは許せない」
 やばい。声になってしまった。

「それだけリスクある立場みたいだな。お前も会えばわかる」
 清見さんにたしなめられる。というか、男になっても、やっぱりお前扱いか。

「町田さんを待たせるのも失礼なので、聞かせられない話を済ませましょう」
 やっぱり陸さんはゴリラ体形だろうと優しい。

「でも聞いていて、智太さんも悲しくなるかもね」
 隼斗が窓の外を見る。この子は日に何回、こうして空を見るのだろうか?

「私から話そう。――我々五人は去年の六月に揃って召集された。いきなり戦場に送りこまれた」

 知的な色男の清見さんが語りだす。俺がいないモスガールジャーのことを。

 ***

 最初だけモスレンジャーと呼ばれたが、そんなことはどうでもいいな。私が目覚めたときは、すでに戦いの場に三人がいた。モネマグリーンが腰を抜かし、スパローピンクが泣きわめきながら弓矢を射ち、シルクイエローが卒倒していた。
 モスウォッチが『とにかく戦って。敵をすべて倒せばミッションクリアだから』と騒いでいた。私たちは全身を黒く覆った男たちに囲まれていた。
 私も女性の姿になっていることに気づいた。パニックではない。ただ茫然としていた。じきに男たちに押し倒された。

 そして真打ちが召集された。

「みんな戦おう!」

 レッドは登場するなり、戦闘員を真紅の剣、すなわち王女の尖剣(ルビーソード)で切り裂いていった。
 彼女の奮迅な戦いぶりは私たちをも奮い立たせた。人がおぞましき異形と化しても、レッドは怯えずに立ち向かった。そして私たち五人で消滅させた。

 モスガールジャーの初代レッドの名はヤマユレッド。燃えるような毛をたなびかせて敵をなで斬る、戦いの女神の具現だった。

 あの団体を成敗し正体を明かす戦いに、モスガールジャーは新参チームだった。しかし破竹の勢いで敵を倒し、その名を関東どころか日本中に(とどろ)かした。今年の春先には、ヤマユレッドのレベルが120、他の者も平均で40ほどになった。
 自分たちよりレベルの高い単体と戦うリスクを算出する式だと、まずチームのレベルを合計したものを半分に割る。それだと我々の数値はほぼ140だ。これにもっともレベルの強い者から割りだす指数をかければ、花の単体レベルに拮抗する。つまり花と雪一人を相手ならば、五人で力を合わせれば十二分に勝てる可能性があった。
 モスガールジャーはBランクとなり、雪月花に続くチームとなった。

 しかし今年の桜が終わるころ、ヤマユレッドはチームを去った。赦せざる存在である邪教集団へと身も心も捧げてしまった。

 ***

「ここから先の数か月は地獄でした。今も続いているかもしれませんけど」
 陸さんがうつむきながら言う。野太い声だろうと、イエローの甘く優しい声を思いださせる。

「そうだよ。これ以上はやめよう」

「隼斗の言うとおりだな。少しだけ省略させてもらおう。
ヤマユレッドがいなくなり最初の戦いで、私たちは全滅と言うものを経験した。レベルが半減した。そして負のスパイラルが始まり、ペナルティでレベルははく奪され続け、こっちの世界でも報酬は強制返還となった。しかし、その原因は私たちが闇落ちしたレッドに依存していたからだ。おのれらの精進を(おこた)っていたからだ」

「それだけじゃないですよ!」
 陸さんが吠えた。
「病院で大きな声をだしてごめんなさい。……でも、私たちがここまで転がり落ちたのは、モネマグリーンのためです」

 ***

 モネマグリーンとは、毒蛾の学名から名付けられました。柿の木とかで触ってみなよとアピールしている、蛍光緑の毛虫の親です。
 グリーンの本名は伊良賀紗助(いらがさすけ)。今年大学三年生だから、二十一歳ですね。明るく快活な子で、彼女も途中まではいて、チームのムードメーカーでした。いわゆるリア充でした。
 戦いにおいてもアグレッシブで、強くないまでも勇敢に戦い、悪を許さぬ心も強く、レベルはレッドに次いで多かったです。

 レッドがいなくなったチームを、紗助君は率先して導こうとしました。それが災いして、あの子は三回連続で死亡しました。……紗助君の報酬は“喜び”。ピークの頃の彼には、物質的ではないささやかな幸せが、木漏れ日のように注いでくれたそうです。でもペナルティのために逆転して、彼の日常は悲しみと苦しみの影に支配されるようになりました。

 彼は戦いでも怯えるようになりました。些細な傷でパニックを起こし戦場から逃亡しようとしました。……ついに招集されても現れなくなりました。
 そして五月の頭に事件を起こしました。
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登場人物紹介

相生智太(あいおいともた)

20歳

大学二年生

龍、陰

スカシバレッド

スカシバレッド

モスガールジャーのエース

清見涼(きよみりょう)

22歳

大学四年生

鶚、村雨

エリーナブルー

エリーナブルー

モスガールジャーの実質リーダー

睦沢陸(むつざわりく)

23歳

フリーター

猪、貫、西瓜

シルクイエロー

睦沢陸

たっぷり女性ホルモンを授かったバージョン




シルクイエロー

モスガールジャーの陸戦巨乳隊員

壬生隼斗(みぶはやと)

14歳

中学二年生

巨樹

スパローピンク

壬生隼斗

すっかり健康になったバージョン

スパローピンク

モスガールジャーのちびっこ隊員

芹澤陽南(せりざわひなた)

17歳

流星、向日葵

キラメキグリーン

キラメキグリーン

モスガールジャーのニューグリーン

夏目藍菜(なつめあおな)

21歳

無職

勇魚、雲、寛容

与那国三志郎

与那国三志郎(よなぐにさんしろう)

モスガールジャー司令官

木畠茜音(きばたあかね)

20歳

大学二年生

鸚鵡、耀

アメシロ

アメシロ

モスガールジャー指令室参謀

落窪一狼太(おちくぼいちろうた)

35歳

夏目藍菜の用心棒兼諸々

山犬、恨

ウラミルフ、リベンジグレイ

リベンジグレイ

モスガールジャーの切り札

伊良賀紗助

21歳

レジスタンス叛逆者

草原

モネログリーン

モネログリーン

モスガールジャーの元隊員

陸奥柚香(みちおくゆか)

19歳

大学二年生

雪割草、蝙蝠

白滝深雪

陸奥柚香

金髪やめて高校時代に戻ったバージョン

白滝深雪(しらたきみゆき)

雪月花の癒し役

白滝深雪

銀髪バージョン

白滝深雪

スーパー魔法少女「黒神子」

竹生夢月(たけおゆづき)

18歳

高校三年生

鳳凰、惨

紅月照宵

紅月照宵(こうづきてるよ)

雪月花の真打ち

紅月照宵

ス-パー魔法少女「身分を隠すため町娘に変装したお姫様。お祭りだって初体験。女剣士に憧れ中。でもその実体は?」

お祭り娘バージョン

深川蘭(ふかがわらん)

25歳

社会人

胡蝶蘭、蛟

紫苑太夫

紫苑太夫(しおんたゆう)

雪月花の仕切り役

紫苑太夫

スーパー魔法少女「華柳」

亀の隊長さん

29歳

地方公務員

甲羅、機動

動的亀甲隊隊長

動的亀甲隊隊長

四名の配下戦闘員と長い脚の亀型兵器で戦う

相生桧(あいおいひのき)

15歳

高校一年生

相生智太の妹


町田さん

フリーの看護師

焼石嶺真(やけいしれま)

19歳

不明

虎、渡鴉

レイヴンレッド、元ヤマユレッド

レイヴンレッド

布理冥尊五人衆

ヤマユレッド

元モスガールジャー隊員

与謝倉凪奈(よさくらなな)

14歳

中学二年生

夜桜、猟犬

ハウンドピンク

ハウンドピンク

布理冥尊五人衆

押部諭湖(おうべろんこ)

13歳

中学二年生

貉、妖精

穴熊パック

蒼柳(あおやぎ)

布理冥尊五人衆

言霊、??

フェローブルー

刀根(とね)

第三方面軍直轄突撃団副長

銅、土

トンネラー

茂羅(もら)

第三方面軍温泉ランド区副司令官

苔、慈

コケライト

佐井木(さいき)

本宮護教隊地方管理部フルーツランド担当

犀、念

サイキック

銀山(ぎんやま)

第三方面軍フルーツランド支部長代理

勝虫、彷

シルバーヤンマー

禿尾(はげお)

第三方面軍直轄渉外隊隊長

銭、任侠

ゼニヨコセー

香山(かやま)

第五方面軍特務隊員

蚊、童、群

モスキッズ

織部(おりべ)

布理冥尊五人衆

花蟷螂、嘲

マンティスグリーン

マンティスグリーン

芹澤の父に擬態中

綿辻(わたつじ)

親衛隊(五人衆付)

蒲公英、迷

メーポポ

大賀(おおが)

布理冥尊五人衆

鬼、痴

オーガイエロー

五木田(ごきた)

親衛隊(五人衆付)

噴射、汚

ジェットゴキ

原田(ばるた)

第三方面軍彩りランド支部長

ヴァルタン征爾

忍者、幻

春日(擬態中)

レジスタンス本部

粘土、鹿

ネンドクン

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