03 モスプレイで知る事実

文字数 3,128文字

 機内は大型バスの通路をゆったりに広げたくらいの大きさで、操縦席とつながっていた。内装にこだわりはなく、むしろ無骨だ。両脇に折り畳める狭いベンチシートがあり、折り畳み式のテーブルが無造作に置かれていた。
 窓が無いから鏡代わりに使えない。この子の傷ついた体なんて見たくないけど、もう一度見つめあいたい。

 イエローとブルーがシートに転がり横になる。ピンクが足を引きずりながらコクピットに向かう。男が立ちあがり、ピンクと操縦を代わる。俺たちへと歩いてくる。

「初めましてレッド君。私がモスガールジャー司令官の与那国(よなぐに)三志郎(さんしろう)だ。上空から君の戦いを見せてもらったが、初陣とは思えぬ度胸だった。まるで呼ばれるのを待っていたかのようだな、ははは。さあ君も腰かけたまえ。怪我の辛さは私こそ知っているからな」

 ピシッとした白シャツと紺色のパンツ。薄くひげを(たずさ)えたグレーヘアの、おそらくは五十代男性。背もあって、半世紀のあいだ女にモテ続けてきたタイプだ。
 肩に白色の大型オウムを乗せている。展開から考えて、おそらくこの鳥は喋る。

「この子は誰ですか?」
 司令官に自分の顔を指さす。
「はやく治療してやってください。傷が残ったらかわいそうです」

「まずそれを聞くのか? さすがはレッドに選ばれし男だな。案じなくていい。君がもとの人間に戻れば、君の精神エナジーが実体化した存在のダメージは消える。本物の君が引き受けるからな。――名前を教えてくれないか? 君のコードネームを決めよう」
「相生智太です」

 この子は無事なのか。ひとまず安堵した。俺の精神が実体化したものなら傷を受けようがないし、そもそも俺が引き受けるのならば……ちょっと待て。
 今の姿は俺の精神のエナジー? ならばこの子は存在しても存在しないのか? 俺が引き受ける? 怪我を? この子は俺でなくても俺? 意味不明だぞ。

「相生に智太か。透明感のある名前だな。よし。君のコードネームはスカシバレッドだ」

「どこが透明(クリア)な名前だよ? 事前に決めていただろ」
 やはりオウムが喋りだした。流ちょうすぎる。
「ていうか、聞き覚えがあるよな……マジかよ」
 オウムが俺に舌打ちした。

「オオスカシバをそのままか。あいかわらずネーミングに統一性がないな。私はオオミズアオの学名。ピンクはスズメガをダイレクトに英訳で、イエローは(かいこ)だからシルク」
「それより早く解散しましょう。ポイントを送ってください。どうせ微小でしょうけど」

 ブルーとイエローが傷だらけで横たわる姿が痛々しいが、服が破けてさらに露出しているからじろじろ見ないようにする。

「あと二分で高度二万五千メートルに到達。自動運転に切り替えた。僕も帰るよ。……スカシバレッドか。いまひとつパッとしないね」
 ピンクが戻ってきた。この子は比較的怪我が少ない。

「言われ様だな」
 与那国司令官がエロかっこよく笑う。
「では君たちは帰還したまえ。近々レッド君の歓迎会をしよう」

「僕はたぶんまだ無理」ピンクが言う。
「私は忙しい」ブルーがぞんざいに言う。
「みんなが来ないのなら私も。それよりポイントを」イエローが遠慮がちに言う。

「ハハハ、薄情なメンバーだな。アメシロ、発表したまえ」

「マジでムカつくから、その喋りをやめろ。だいたいお前こそ動けるのか?」
 アメシロと呼ばれたオウムが司令官の肩でぼやく。
「ポイントはトータル11。相生、このチームは誰が活躍しようと均等に分ける。だから今回は一人2ポイント受けとって、残り3ポイントは繰り越すか……」

「ピンクに3」ブルーが反対側を向いたまま言う。
「同感です」イエローも尻をさすりながら言う。

「いつもありがとう。でもレッドがいなければ逃げてペナルティの展開だったし」

「ならばそいつに1でピンクが2。私は脇腹に穴が開いたままだ。早く戻してくれ」
 ブルーがぞんざいに言う。


「この怪我だと差し引きゼロですね」
 イエローがため息をつく。

「そういうことだ。――諸君、お疲れだった。また元気な姿で会おう」

 司令官がスマホみたいな端末のボタンを押す。ブルーとイエローが寝ころんだまま気怠(けだる)そうに手を振る。体が薄らいでいく。

「レッド、これからもよろしく」
 俺へと微笑んだピンクの女の子も消えていく。



「まず君の特性を調べよう」
 与那国司令官が俺に端末についたアンテナを向ける。オウムも画面を覗きこむ。
「おお、“龍”だと? 素晴らしすぎる」

「すげえ。でも、もう一つの“陰”ってなんだ? 陰キャではなかったけど」
 アメシロが司令官の肩から飛び、テーブルに着地する。俺を見あげる。
「こいつの説明は(いら)つくから私が仕切る。相生もその怪我ならば早く帰りたいよね? 私だって帰って寝たいし、細かい話は明日にしよう。ちょっとぐらい質問に答えてあげるけど、要点は絞れよ」
 生意気で馴れ馴れしいオウムだ。

「これは仮想世界ですか?」

 オウムでなく司令官へと、なによりそれを質問する。最先端のVRゲームの世界に取りこまれたのならば、この展開もあり得るかも。よく知らないけど。

「半分は正しい。だが残念ながら違う」
「お前は口を開くな! 今いる成層圏も先ほど戦った東京湾のふ頭も現実世界だ。相生の精神エナジーが実体化したいまの姿も現実に存在する。一般人にも認識できる……。
しかし、相生のエナジーは同性の目でもかわいいな。アイドルグループでも滅多に見かけないグレードだ。それとタメ口でいいよ」

 こいつは雌だったのか。質問したいことは港のコンテナほどある。さきほどまでいた女たちのこと、トンネラーのこと、精神エナジーのこと、ポイントとか代償とか……。たしかに体中が痛い。横になりたいのを我慢してシートに座る。

「知りたいことは、俺はなんで女の子に変身した? こんなことはこれからも起きるのか? そもそも正義の味方ってなんだ?」
「変身ではないよ。相生は選ばれたからその精神が表面にあふれ、戦士に転生した。そして、これからも呼びつけられる。私や司令官、清見(きよみ)壬生(みぶ)睦沢(むつざわ)同様にね」

 ブルーたちの本名か……。重大な疑問が生じてしまった。

「正義の味方の件だけど、大まじめに言うから信じてね。日本を牛耳ろうとする悪を倒すために、私たちは戦いつづけなければならない。敵は布理冥尊(ふりめいそん)という邪教集団。すでに政治家や実業家の多くが洗脳されている」

 そんなことよりも大事な質問……。やめておけと心の声が言う。それに従い、ほかのことを聞こう。

「なぜ俺たちは選ばれた?」
「奴らの邪な教義に抵抗できる善なる者が選ばれる。……選ばれた時点の話だけどね」

 オウムがなぜか悲しげな顔をする。感情豊かな鳥だが、それで選ばれたのならば理解できる。俺は宗教の勧誘に一度も引っかかったことがない。


「顔色が悪いね。今日はこれくらいにしようか」
 アメシロが俺を覗きこむ。

 アドレナリンが引いてきたのか、たしかに痛みが増してきた。もう立ち上がれないくらいだ。でも、やっぱり、これだけは聞いておかないと。

「俺が女になったってことは、じつは彼女たちも……」

 クールビューティーなブルー、愛らしいピンク、巨乳なイエローも。

「ハハハ、もちろん彼女たちも本当の姿は男だ。そして、私やこの雄鳥の本来の姿は女だ」
 与那国司令官が割って入る。手にする端末を操作する。
「私は現実に戻ったほうが辛いが、そうも言っていられないな。スカシバレッド、また会おう」

 俺の意識がすっと霞んでいく。

碧菜(あおな)、ざけんなよ! まだだろ!」
 どこかでオウムが騒いでいる。
「相生、聞こえているか? 中井草駅北口のカフェに明日十一時だからな! 本当の私は」

 声が遠ざかっていく。その駅ならば、俺が通った高校の最寄り駅だけど――。
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登場人物紹介

相生智太(あいおいともた)

20歳

大学二年生

龍、陰

スカシバレッド

スカシバレッド

モスガールジャーのエース

清見涼(きよみりょう)

22歳

大学四年生

鶚、村雨

エリーナブルー

エリーナブルー

モスガールジャーの実質リーダー

睦沢陸(むつざわりく)

23歳

フリーター

猪、貫、西瓜

シルクイエロー

睦沢陸

たっぷり女性ホルモンを授かったバージョン




シルクイエロー

モスガールジャーの陸戦巨乳隊員

壬生隼斗(みぶはやと)

14歳

中学二年生

巨樹

スパローピンク

壬生隼斗

すっかり健康になったバージョン

スパローピンク

モスガールジャーのちびっこ隊員

芹澤陽南(せりざわひなた)

17歳

流星、向日葵

キラメキグリーン

キラメキグリーン

モスガールジャーのニューグリーン

夏目藍菜(なつめあおな)

21歳

無職

勇魚、雲、寛容

与那国三志郎

与那国三志郎(よなぐにさんしろう)

モスガールジャー司令官

木畠茜音(きばたあかね)

20歳

大学二年生

鸚鵡、耀

アメシロ

アメシロ

モスガールジャー指令室参謀

落窪一狼太(おちくぼいちろうた)

35歳

夏目藍菜の用心棒兼諸々

山犬、恨

ウラミルフ、リベンジグレイ

リベンジグレイ

モスガールジャーの切り札

伊良賀紗助

21歳

レジスタンス叛逆者

草原

モネログリーン

モネログリーン

モスガールジャーの元隊員

陸奥柚香(みちおくゆか)

19歳

大学二年生

雪割草、蝙蝠

白滝深雪

陸奥柚香

金髪やめて高校時代に戻ったバージョン

白滝深雪(しらたきみゆき)

雪月花の癒し役

白滝深雪

銀髪バージョン

白滝深雪

スーパー魔法少女「黒神子」

竹生夢月(たけおゆづき)

18歳

高校三年生

鳳凰、惨

紅月照宵

紅月照宵(こうづきてるよ)

雪月花の真打ち

紅月照宵

ス-パー魔法少女「身分を隠すため町娘に変装したお姫様。お祭りだって初体験。女剣士に憧れ中。でもその実体は?」

お祭り娘バージョン

深川蘭(ふかがわらん)

25歳

社会人

胡蝶蘭、蛟

紫苑太夫

紫苑太夫(しおんたゆう)

雪月花の仕切り役

紫苑太夫

スーパー魔法少女「華柳」

亀の隊長さん

29歳

地方公務員

甲羅、機動

動的亀甲隊隊長

動的亀甲隊隊長

四名の配下戦闘員と長い脚の亀型兵器で戦う

相生桧(あいおいひのき)

15歳

高校一年生

相生智太の妹


町田さん

フリーの看護師

焼石嶺真(やけいしれま)

19歳

不明

虎、渡鴉

レイヴンレッド、元ヤマユレッド

レイヴンレッド

布理冥尊五人衆

ヤマユレッド

元モスガールジャー隊員

与謝倉凪奈(よさくらなな)

14歳

中学二年生

夜桜、猟犬

ハウンドピンク

ハウンドピンク

布理冥尊五人衆

押部諭湖(おうべろんこ)

13歳

中学二年生

貉、妖精

穴熊パック

蒼柳(あおやぎ)

布理冥尊五人衆

言霊、??

フェローブルー

刀根(とね)

第三方面軍直轄突撃団副長

銅、土

トンネラー

茂羅(もら)

第三方面軍温泉ランド区副司令官

苔、慈

コケライト

佐井木(さいき)

本宮護教隊地方管理部フルーツランド担当

犀、念

サイキック

銀山(ぎんやま)

第三方面軍フルーツランド支部長代理

勝虫、彷

シルバーヤンマー

禿尾(はげお)

第三方面軍直轄渉外隊隊長

銭、任侠

ゼニヨコセー

香山(かやま)

第五方面軍特務隊員

蚊、童、群

モスキッズ

織部(おりべ)

布理冥尊五人衆

花蟷螂、嘲

マンティスグリーン

マンティスグリーン

芹澤の父に擬態中

綿辻(わたつじ)

親衛隊(五人衆付)

蒲公英、迷

メーポポ

大賀(おおが)

布理冥尊五人衆

鬼、痴

オーガイエロー

五木田(ごきた)

親衛隊(五人衆付)

噴射、汚

ジェットゴキ

原田(ばるた)

第三方面軍彩りランド支部長

ヴァルタン征爾

忍者、幻

春日(擬態中)

レジスタンス本部

粘土、鹿

ネンドクン

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