06 殲滅戦のはじまり
文字数 2,267文字
『スクランブルで呼んで♡』
『同じ部屋に止まったりしてデレ』
土日が終日補習の夢月から、しょっちゅうメッセージが届く。蘭さんはいまも端末をチェックしているだろうか。
「司令部からでした。夜桜が同行しないのならば作戦中止だそうです」
通信を終えた芹澤が戻ってきた。
福島まで入ってから言うなよ。しかも俺をハウンドピンクの格下扱いしやがった。その通りだとしても。
「続行すると連絡して」
「貴殿ならばそうおっしゃると思い、そのように回答して通信を切りました」
「ですな。どうせ私は前線で戦うことはないですし」
それはそれで怖いけど、確認しておかないとならないことがある。
「作戦内容は?」
また話を聞いてなかったことがばれてしまうが仕方ない。
「今までのレジスタンス活動と同様です。急襲して殲滅をくり返すだけです」
襲撃の順番やルートは湖佳が決めてあり、宿などの手筈は芹澤が済ましてあるそうだ。諸々は優秀な年下女子に任せて、俺は戦いに専念しよう。
「途中まではコールドレッドと緑女だけでもたやすい。やがて支部長クラスが現れる。もしくは星空義侠団が。そこからは混沌ですな」
***
十三時過ぎに新幹線を下車する。十一月の東北なんて地吹雪が吹きすさぶイメージだったが快晴だった。土曜だから観光客も多いし。というかここがコードネーム将棋温泉か。実際の名は何だろう。女子達に任せすぎて降りた駅名を確認さえしなかった。
湖佳がスマホでナビするあとを続く。たしかにでっかい王将のモニュメントがあった。
「最初の敵アジトは、潰れた板金工場に偽装しています」
芹澤が姿勢よく歩きながら言うけどそんなのばかりだ。
「司令部の命令に反した行為なので、私は転生できません。なので貴殿と抱き合い変身する必要があります」
彼女のいる人相手に本当ですか。狙ったわけじゃないよな。
「私の黒マントでも一緒に変身できますな」
「私は黒ビキニになりたくな……精霊になれるのか」
芹澤の口角があがった。ヒマワリもしくは流星の
「ここです」
湖佳がシャッターの閉ざされた民家サイズの工場前を通り過ぎながら言う。両隣は本当の民家。しばらく歩いた後に。
「偵察してきます」
路地で黒ビキニ経由で姿を消すのが見えた。俺と芹澤はコンビニ前で待機する。
「戻りました」
十分後に湖佳がセーター姿でやってきた。
「幸先が良いです。生身で二人おりました。間違いなくハイグレードですな」
「ここは幹部補が一人。残りは上級以下の戦闘員だったよな」
芹澤の問いかけに。
「戦闘員服が四着ございました。それを処分して完了でよろしいかと。ちなみに二名は精霊の盾をまとってございません。こちらも生身で倒すべきですな」
「屈服させるだけ……。なるほど。貴殿のお考えはいかがですか?」
「幹部補は倒さないの?」
「田舎はのんびりでございます。ああ、いつ現れることでしょう」
「貴殿のお考えに従います」
「俺が二人をのして、戦闘員服を奪えばいいんだね」
「ただし銃を持っています。先手必勝ですな」
「だったら貴様が倒せ! 黒ビキニで戦えば互角だろ」
「いいよ、俺がやるよ」
どこからか侵入した透明の穴熊パックが、内側から裏口の鍵を開ける。監視カメラも破壊済だ。塗装液と油の匂いがまだ残る。芹澤は表で見張り。
――こちらです
パックに導かれるままに、足音を忍ばせて奥へと進む。
「ははははは」
同年代で田舎の悪そうな兄ちゃんたちが、あぐらをかいてバラエティー番組の再放送に笑っていた――ミシリ。これはうぐいす張り。振り返りやがった。お笑い芸人にいそうな二人。
背後からの奇襲失敗。だとしても。
「とお!」
スカシバレッドのときのくせで、思わず声をだしてしまった。一人の顔を蹴とばす。靴先が鼻腔に食いこむほど完璧に決まったからこいつは戦闘不能。
「ひ、ひいい」
もう一人が後ずさる。
――銃は両方とも確保
穴熊パックは口にくわえたものにも光学迷彩をかけられるらしい。
「レジスタンスだ。降参しろ」
俺の言葉に、突っこみ役が似合いそうな兄ちゃんが恐怖を浮かべる。
「テ、テロリストかよ。あんたはよそから来たな」
そう言いながらも目で何かを探している。でも銃は見つけられない。戦闘員服に着替える時間も無い。
「ここにはここのルールがある!」
ポケットから折り畳み式ナイフをだす。投げやがった。野球少年ほどに練習を積んだのだろう。俺の右目へと完璧なコントロール。
俺は親指と人差し指で挟む。
「ぢぐじょう!」
この訛りは……。男がアーミーナイフを持って特攻してくる。
「悪い」
俺はカウンターで顔面を殴る。
「すまない」
崩れたところを腰の入ったミドルキックする。
男はもう動かない。
「お見事ですな」
浮かぶアナグマが姿を現す。
「エナジーナイフで戦闘員服を処分してください。銃の破壊もお願いします。そしたら東北ルールに関して尋問しましょう」
「尋問だけだぞ」
俺は心にナイフを思う。
「喋らなくても拷問はしない」
おそらくこいつらは喋らない。本部がやさしく接しない限り。
「私だってやりたくない」
アナグマが答える。
「しないとクリアにたどり着けない。ポイントを手に入れられない」
花鳥風樹を強くするために、湖佳はここにいる。
俺は覚悟を決める。最初に倒したボケ役みたいな面に、バケツで水をかける。
「起きない。これ以上やると風邪をひく」
「ですな。暖房を強めて去りますか」
弱い二人はアジトをでる。芹澤が直立不動で待っていた。